彼へ。

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ある日手紙が届いた。 私の名前は書いてなくて、送ってきた人の名前も書いてない不思議な手紙。 中を開けると "これは貴方の愛するモノに渡してください。" と別に書かれたメッセージカードを見た。 乱雑にビリビリと破いた記憶のある封筒は記憶の中だけであったか、汚く破いた跡なんてないほどに綺麗に開けられていた。 あれ?と思いながら封筒を二度見する。 しかし、封筒は綺麗に開けられている。 なにかがおかしいなんて思わなかった。 どうでも、よかったのだ。 封筒が綺麗だろうが汚いだろうがどうでもいい。 その頃の私は自暴自棄になっていた。 一ヶ月たった時、私はふと手紙の存在を思い出した。 大事に閉まっておいたとは言えない雑な置き方をした手紙には皺一つなく、一つ変わったことといえば… 手紙の中身が書かれていたことだった。 "元気にしておりますか?" それだけだった。 なにがどう見て元気に見えるのだろうか? 私以前に国が元気じゃない。 ラジオでは、毎日のように戦争に関する情報がいくつも出ておりその度に胸が痛くなる日々。 勝てると思い、短期戦で挑んだ戦争は長期戦に持ち込みいよいよ物資は無くなってきている。 贅沢は敵だ。などの標語が作られるようになりパーマをかけている人間を差別するこの時代。 この国が、差別をそそのかしていると考えると虫酸が走る。 周りの人間は全員敵。 スパイらしい人がいないかお隣さんでも容赦なくギラギラと目を光らせ見張るこの世の中腐っている。 毎日のように空襲が起きて、私はなぜがいきている。 毎日、何万人の人が空襲に巻き込まれて亡くなっていく中私は生きる希望もなくして生きているのだ。 生きたい人が生きれなく、生きることに希望もなく生きているから生きている私がこの世にいるのはどうしてだろう。 空襲が起きても逃げることをやめた。 だって、彼は帰ってこないから。 だけどもしかしたら彼が帰ってくるかも…なんて期待して…矛盾が矛盾を呼ぶ。 手紙をそっと閉じ、封筒の中に入れて元々入れておいた場所へ置いた。 いや、置こうとしたのだが。この不思議な手紙。 私は、この手紙だれに渡すだろうか? ちょっと考えてから。いや、考えるとは形だけで誰に渡すかはもう決まっている。 どこにいるのかもわからない彼の元へ。 封筒にはなにも書かず。 便箋には "君のいた日々は、乾いた心を癒してくれた" それだけ書いて私は、手紙を燃やした。 そして私自身も燃えた。
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