ACT.1

2/2
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 顔を上げると、高校生くらいのウェイトレスが大きな目を輝かせてモンスターの絵を見ていた。  セミロングの艶やかな黒髪に、目鼻立ちが整った小柄な少女。可愛い子がいるとは思っていたが、突然のことに戸惑う。  今、アルゴスって言ったよな?  アルゴスというのは、ギリシャ神話に登場する百の眼を持つ巨人だ。  その巨人を元にして、顔や体全体に眼があるモンスターの絵を描いていたが、名前を知っている女の子がいるとは思わなかった。  しかも、気持ち悪いと感じる人がほとんどだと思うのに。 「あっ、すごい! オーガ、サイクロプス、アラクネーまで! どれも可愛い~! はぁ、ずっと眺めていたくなっちゃう……!」   少女はまるで美少女キャラを見るかのようにうっとりして、不気味な怪物を見つめる。 「えっと……君はモンスターが好きなんだね」 「はい! 大好きです! あの、この漫画ってどこに掲載されるんですか?」 「あ……俺はまだデビューしてなくて、これは担当さんに見せただけだから掲載されないよ」 「ええっ、そうなんですか!? 読めなくて残念です、こんなに素敵なのに」 「……そんなにいいかな」 「最高ですよ! ダークファンタジーって感じがたまらないですし、デザインが斬新で可愛くてかっこよくて! 私、すっかりファンになっちゃいました!」  その言葉に胸が熱くなり、あふれ出しそうな涙をこらえる。 「ありがとう……。今度は掲載されるように頑張るよ」 「はい! 応援してます!」  少女は太陽のように明るい笑顔を見せ、会釈をして去っていった。  ――そうだ、俺は読んだ人を笑顔にさせられるような漫画を作りたいと思って頑張ってきたんだ。  大切なことを思い出し、力が湧いてくるのを感じた。  さっきまで真っ暗だった世界は彼女のおかげで一変し、眩い光で照らされていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!