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ACT.3
紗羽と出会ってから、ファミレスに行く度に彼女と新作の話をするのが恒例となっていた。今日もバイトを終えた彼女がやって来たので、完成したネームを読んでもらう。
「どうかな?」
「面白いです! オーガがシャイで可愛くて、すごく好きです!」
「そっか、よかったー。……あ、直した方がいいと思うところってあるかな?」
「そうですね……。好みにもよると思うんですけど、もう少しドキドキするシーンがあった方がいいかなって思いました! ベタですけど、こう物を取る時に手が触れちゃったり」
紗羽は俺の左手のそばにあるコップに手を伸ばし、それをつかむ。その時、細い指が触れて温もりを感じた。
「あっ! すみません……!」
顔を真っ赤にした彼女は、慌てて手を引っ込める。
「だ、大丈夫」
俺も赤面していると、
「……あ、あの、飲み物入れてきますね!」
紗羽が自分のコップを持って立ち上がり、速足でドリンクバーの方へ向かった。
……ああいう反応をされると困る。俺のこと意識してるんじゃないかって、期待しそうになる。
胸の鼓動は速くなっていくばかりで、落ち着くためにふっと息を吐いた。
その後もお互いに照れてしまっていたけど、ネームの参考にするため紗羽におすすめの少女漫画を教えてもらう。紗羽は少女漫画もすごく好きらしい。
その日の帰り際、紗羽が頬を赤く染めながら小さな紙袋を渡してくれた。中に入っていたのは、緑茶と書かれた箱とクッキーだった。
「少し疲れていらっしゃるように見えたので、何かできないかなと思いまして……」
最近はネームを描くために寝不足気味だったので、彼女の優しさに胸がいっぱいになる。
「ありがとう……すごく嬉しい」
紗羽が好きだ。この場所だけじゃなくて、外でも会いたい。
とっさに連絡先を聞きたい衝動に駆られるけど、俺はその気持ちをぐっとこらえて彼女と別れた。
俺はただのフリーターで、あんな素敵な子にはつり合わない。
だから、漫画家としてデビューできたら彼女に連絡先を聞こう。そして、いずれ想いを伝えよう。
そう心に決めて、俺は夜空の下を走った。
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