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ACT.2
その日から俺は、新しい漫画の案を考え始めた。
彼女が気に入ってくれたモンスターを活かせないかと、二日間考えた末にあることを思いつき、俺は再びファミレスへ向かった。
夜間にバイトをしているので起きるのはいつも昼頃で、お店にも午後から行くことが多い。
席に着いてすぐに、店内を移動している彼女の姿を見つけた。話しかけるより先に、目の前の通路を通った彼女が俺に気づく。
「あ! 先日は申し訳ありませんでした! お客様にその、失礼な態度を取ってしまって……」
彼女に頭を下げられ、「いや、全然平気だから!」と慌てて声をかける。
「突然話しかけられてびっくりしたけど、褒めてくれてすごく嬉しかったんだ」
「ホントですか?」
顔を上げた彼女は、少し不安そうに尋ねてくる。
「うん、ホントだよ。それでさ、次の漫画はオーガが主人公で、少女との恋を描いたら面白くなるんじゃないかって思ったんだけど、どうかな?」
本来なら人間を食べているオーガが人間を好きになってしまったという話にすれば葛藤を描けるし、読者も入りやすいはずだ。
「わぁ! すごくいいと思います! 読みたいです!」
彼女は花が咲いたようにぱっと表情を輝かせた。その姿を見てホッとする。
「よかった。頑張って描くね」
「あの、私17時になったら上がるので、お話を聞いてもいいですか!?」
漫画の内容が知りたくてしょうがないといった表情で、彼女が訊いてくる。俺は可愛いなと思いながら「うん、いいよ」と答える。
「ありがとうございます!」
弾けるような笑顔を見せた彼女は、フリルのついたスカートを翻して去っていった。
新作の詳しいストーリーを考えていると17時になり、
「お待たせしてしまって、すみません」
私服に着替えた彼女がやって来た。その姿を見てハッとする。
彼女が着ていたのはワインレッドのワンピースで、レースの襟と胸元のリボンが可愛く、お嬢様のようだった。
さらに黒のニーソックスを履いていたので、なんというか全体的にとても好みの格好で照れてしまう。
彼女が向かいの席に腰かけるとデートのような気分になり、緊張で鼓動が速くなっていく。他の店員におかしな目で見られるんじゃないかと思ったが、特にこちらを見ている様子はない。
――あれ?
チラチラと彼女の服装を見ていると、長袖の服を着ていることに気づいた。
「長袖で暑くない?」
「あ、大丈夫です! ここは冷房が効いていますし」
その答えに「そっか」と頷く。
「……あ、そういえば名前を教えてなかったよね。俺は東雲佑。22歳」
「私は月岡紗羽です。よろしくお願いします!」
詳しく話を聞くと高校二年生で、今は夏休みなので週5でバイトをしているという。
自己紹介を終え、新作のストーリーの案やキャラのラフを見せると、彼女はとても喜んでくれた。
「メインは恋愛だけど、モンスターたちの日常をコミカルに描こうかなと思って」
「あ、今度はハーピーもいるんですね! 楽しみです!」
「やっぱり詳しいね。RPGとか好きなの?」
「はい! 小学生の時にRPGをやっていたら、モンスターたちの可愛さにすごく惹かれたんです。どんな怪物なのか調べたらどんどん好きになって、家にはフィギュアとかポスターをたくさん飾ってます!」
彼女の部屋を思い浮かべて驚く。アルゴスを可愛いと言っていたくらいだから、不気味なモンスターが並んでいるんだろう。
「あ、あとスマホのストラップがお気に入りなんです! 可愛いですよねー!」
そう言って紗羽が取り出したスマホには、ラバーストラップが三つついていた。モンスターがデフォルメされた物だったが、どれも怖い。
「――あ、ごめんなさい。やっぱり私の好みって変ですよね……」
俺が返答に困っていたせいか彼女は表情を曇らせ、目を伏せてしまった。
「そんな、気にすることないよ! 誰だって変わってるところあるしさ」
「……そうですか?」
「うん。包み隠さずに話すと、俺は小学生というか小さい女の子が好きで……あっ! アニメとかの話ね!? 現実ではそうじゃないから!」
「えっと……東雲さんの漫画のヒロインは15歳でしたよね?」
「ああ、それは前に担当さんに止められたからね……。やばい奴だって思うでしょ? 中学の時はクラスメイトの女子にバレちゃって、キモイって言われたり、避けられたこともあったなぁ。
でも、みんなが同じような人間だったらクローンみたいで気持ち悪いし、変わってるところがあっていいんだって思ってる。
個性があるからこそ、その人に興味を持ったり、好きになれたりするんじゃないかな。俺は君のこといいなって思ってるしね」
やべっ、何言ってんだろ俺……!
言ってしまった後で恥ずかしくなり、照れながら紗羽を見ると、彼女は目に涙を浮かべていた。
「大丈夫!? ごめん、何か嫌なこと言っちゃったかな……!?」
「い、いえ……すみません、嬉しくて……」紗羽は小さな声で言い、涙を拭う。「……ありがとうございます。東雲さんって、かっこいいですね」
「えっ!? そ、そんなことないよ!」
思いがけない言葉に驚き、一気に頬が熱くなる。
その様子に気づいたのか、「ふふっ、可愛いところもあるんですね」と紗羽に笑われてしまった。
「か、からかわないでよ」
「ごめんなさい。でもかっこいいと思ったのはホントなので、東雲さんのこともっと知りたいです」
大きな瞳で見つめられてドキッと胸が高鳴り、「……う、うん。なんでも聞いて」と視線をそらしながら答えた。
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