ACT.5

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ACT.5

 最初は単に休みだったり、勤務時間がいつもと違うのかと思った。  しかし、次の日も、またその次の日も姿が見当たらない。  まさか……辞めちゃったのか?  この間のことを思い出し、自分のせいなんじゃないかと考えて呆然とする。  紗羽の連絡先は聞いていない。どの高校に通っているのかも知らない。だから彼女がファミレスに現れない限り、会うことができない。  結果を楽しみにしてると言って微笑んだ彼女の姿を思い出し、胸がズキンと痛んだ。                   翌週になっても、紗羽は現れなかった。  いつも午後の時間帯にファミレスに行っているので、午前から来てみてもいない。  店員に彼女のことを訊けば、怪しい奴だと思われるかもしれない。そう悩んでいたけれど、気になって思わず訊いてしまった。  若いウェイトレスは、「あ、この前退職されましたよ」と答えた。  紗羽に出会ってから色づいていた景色は、色を失ってしまった。  俺のせいだとしたらきちんと謝りたい。それができたら、彼女の前から姿を消すから。  ――そう願っていても、神様が叶えてくれるわけじゃない。  俺は気がふさぐの感じながら、バイト先へ向かうため夜道を歩く。  池のある少し大きな公園の中を通っていると、小柄な女性が数メートル先の道を横切った。公園内は街灯が少なく、薄暗くて危ないのにと思っていた時、女性が街灯の下を通った。  あ……。女性の顔が見え、足を止める。小柄な女性は――紗羽だった。  ようやく会えた。  しかし驚いている間に、彼女はどんどん離れていってしまう。焦って足を踏み出した時、「きゃあっ!」という悲鳴が上がった。  気がつけば、見知らぬ男が紗羽に後ろから抱きついていた。 「――やめろっ!」  俺は急いで彼女の元へ走り、男を引きはがそうとする。だが男の力が強く、なかなか離すことができない。  やだ、やめて……という紗羽の嘆く声が聞こえ、 「やめろって言ってんだろうが!」  俺は男の足を思いきり踏み、力が緩んだ瞬間に体を突き飛ばした。地面に投げ出された男の腕をつかみ、スマホで警察を呼ぼうとした時、 「はあ? 男かよ」  男がそう言った。けれどそれは、俺のことを見てではなかった。男の視線の先を追い、そこで見た光景に目を疑う。  ……え?  男から解放された時に転んでしまったのか、立ち上がろうとしている紗羽の髪が、短くなっていた。正確にはネットらしき物をかぶっていて、そこに髪が収まっていた。  その横顔は、いつも見ていた小柄な少女とは違って見えて――。  唖然としていると、紗羽が近くに落ちていたウィッグのような物をぱっと拾い、それをかぶった。 「痛っ!」  不意に手首をひねられ、一瞬のうちに男が逃げ出してしまう。 「待て!」
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