王妃たち

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その贈り物はある日、突然届いた。 新しい執務長、ブレゼ様に呼ばれていってみると私へという贈り物を渡された。 城内に持ち込まれるものだから、誰に宛てたものでも手紙でも中をあけて検査されてから渡される。 ブレゼ様の目の前で大きなその箱を開けてみると、豪華なドレスが入っていた。 貴族出身ではあるけど、自慢じゃないけど、こんなもの着たこともない。 社交界なんかにもお妃様のお世話としての付き添いでしか出たことはない。 着る場所もない。 というか、これはウェディングドレスといわれる代物だ。 花嫁衣装。 「ランベル、結婚の約束があるのなら早く嫁いでしまいなさい。誰も引き留めたりはしません」 ブレゼ様にはそんなことを言われた。 「婚約者なんていませんってばっ」 というか、侍女も減ってる今は引き留めてほしいっ。 「そのような豪華な贈り物をくださる方が望まれているのでしょう?差出人は無記名でとてもあやしいものとして中を私も確認しましたが」 私を望んでる人と言われても一人しか思い当たらない。 そしてその人はこんな贈り物も贈れるような立派すぎるお方だ。 というか、ブレゼ様もよく知っていらっしゃるあの方しかいるはずもない。 アンリ様。 「しっかりとお断りさせていただきました。こちらは質に売り払ってもよろしいでしょうか?」 「お断りする必要があるような方なのかしら?城内の侍女を勤めていても、もう年頃の王子様もいらっしゃいませんし、なにも得することはありませんよ?新王、オリビエ様はいらっしゃいますが、妃二人で手を焼かれているような女好きとも言えない方ですし、王様のお手つきを望むのはほぼ不可能です」 私がやる侍女の旨味はそれしかないかのようにブレゼ様も仰ってくださる。 お婆ちゃんも言っていらした。 まぁ、貧乏貴族の娘、誰かに見初められてもっていかれなきゃならないのだろう。 じゃなきゃ、一生独身が決まってしまうようなもの。 「オリビエ様…じゃなくて、王様のお手つきなんて望んでいませんよ」 「兵士などやめなさい。国に従事して安定した収入はありますが、出世も厳しく武門の名家でなければ生家より落ちた暮らしとなってしまいますよ」 ブレゼ様はどこか私の結婚斡旋をされていらっしゃるかのように思ってくる。 正直にこれはアンリ様からいただいたものだと言ってしまいたいくらい。 アンリ様に貢がれて望まれていることをブレゼ様はいいとは仰らないはずだ。 私自身もなにを騙されるんだと思ってしまう。 アンリ様の嫁になんかなってしまったら、慈悲だ慈悲だと自分の子供でもない子供の面倒をみることになりそうだし。 「い、今はまだ王妃様方のお世話をさせていただきたいのです」 ということにしてみた。 「行き遅れますよ。望んでくれる方がいるうちが華というものです。結婚して子供を産んでも舞い戻ってきている私のような者もいます。あなたも少しばかりは恋や色に目を向けなさい」 そんな言葉で結婚をひたすら斡旋するのはやめてくれて、解放はしていただけた。 わかっている。 私も結婚したかった。 なんであんな癖のある方に気に入られているのか自分がわからない。 ドレスは売り払わせてもらった。 保管する場所もない、一人部屋でもない部屋だったから。 色褪せてしまう前にさっさと売るほうがお金にもなる。 お給金はいつも実家に送っている。 雨漏りするような屋根をさっさと直してほしくて。 ドレスを売り払ったお金も実家に送った。 お城で過ごしているだけの中では、町にもあまりいくこともないし、無料でおいしいものも食べられるからお金があまり必要ない。 必要となる日用品は安く売ってもらえる。 お出かけをしないからお洒落を気にすることもないし、買うものがない。 城内で働いているだけで私の生活は安泰だ。 オリビエ様とお妃様方を見ていると結婚に憧れもなくなる。 男への幻想なようなものだって、マリー様とカトリーヌ様の愚痴をそれとなく聞いていてなくなる。 ドレスについていた小さなボタンだけ記念にいただいた。 ボタン1つでもとても高そうなもの。 ボタンを眺めてから、ぎゅっと握りしめて、どこか覚悟を決めた。 私の人生、なるようになる。
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