110人が本棚に入れています
本棚に追加
生まれはロウエンの地方領主の縁関。
父は領内の政治に関わりはあるものの、ほぼ名ばかりの貴族の家で屋敷は代々継がれた、ところどころ雨漏りもするようなボロ屋敷。
雇っている下男下女はいても、そう大勢というわけもいかず、手がまわらないところも多く。
ほぼ家族総出で雨の日には雨漏り修理をしているような家。
下男下女にはお嬢様と呼ばれてはいたし、貴族らしく教養も身につけさせてもらったけれど、兄弟も多く、食べていくのに苦労するような家だった。
15才。
そろそろ年頃となって、社交界に出て名門貴族の家に嫁いで脱貧乏を試みようと思っていた私には城への奉公の話が持ち上がった。
つまり、そこらの名門貴族の家のお嬢様のように社交界に出るような地位や金銭もなければ、働いて金稼いでこいとなったわけである。
夢はあった。
脱、貧乏。
社交界デビューのその日ばかりはおろしたてのいいドレスを着て、名門貴族に見初められて恋愛して結婚。
儚く崩れて、私は下男が御者をする馬車で王都へと運ばれる。
その馬車もいかにもお金ありませんというような、囲いもない野良作業用の荷馬車のようなもので、あるだけましと言えるようなもの。
田舎貴族の田舎娘というもの。
王都なんて遠いところにはもちろんいきたくもなかった。
お見送りをしてくださったお父様とお母様を見た限り、奉公に出て舞い戻ることもできそうにない。
笑顔で嫁いでこいと言わんばかりに送り出された。
過ぎていく景色には不安しかない。
「モニカお嬢様、この峠を越えたら王都が見えますぜ。立派な城での奉公なんですから大出世とも言えます。そう暗い顔をなさらないでくださいよ」
下男は私を気遣ってそんな言葉をかけてくれる。
貴族の女は基本は働けない。
夫をもって、夫になにかをさせて働くというのならある。
男尊女卑というもの。
世界は男がまわしているかのよう。
峠を越えた遥か遠くにその王都が見えた。
城を中心として立派な建物ばかりの町が大きく広がり、そのまわりを小麦畑が囲んでいるようだ。
綺麗だった。
余計に不安でこわくて悲しかった。
最初のコメントを投稿しよう!