王妃たち

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先王様が亡くなられた波紋がまだまだ残る中、そのお妃様はオリビエ様の3番目の妃として嫁にこられた。 とても小さな、まだまだお子様といえそうな方だった。 可愛らしい。 可愛らしいけど、オリビエ様と並ぶと兄と妹かのように背の釣り合いもとれるはずがなく、オリビエ様に手をひかれて歩く姿をお見送りしたあと、その場にいた侍女たちは半分パニックとなった。 まさかあんな可愛らしい姫様がお妃様としてこられるとは思っていなくて。 またマリー様やカトリーヌ様のような方かと思っていたのに、あまりに可愛らしくて。 3番目のお妃様、アニエス様のお世話は私がやりますと立候補する者が多くて、誰がと決められることはなかった。 私も可愛らしいから愛でたい。 あのお妃様なら、きっと可愛らしく素直な優しい方になってくださる。 先のお妃様方に、オリビエ様に汚されないように守らなくては。 なんていう話で侍女たちの間で盛り上がっていたら、ブレゼ様に叱られて仕事に戻る。 てきぱきとお妃様方の夕食の支度を整えていたら呼ばれて、なにかと思っていってみるとアニエス様のドレスを渡された。 明日、アニエス様が着られる予定の花嫁衣装。 とても素敵なものに仕上がってはいるけれど、こんなのはアニエス様には着られない。 私ならサイズはあうかもしれないけれど、アニエス様のサイズではなさすぎる。 「お願い、モニカ。私、裁縫得意なほうだけどこんなの一人じゃできないから手伝ってほしいの」 と、侍女仲間に頼まれた。 アニエス様のサイズにドレスの仕立て直し。 明日には必要となるもので、私もアニエス様が悲しまれないように大急ぎで取りかかる。 マリー様やカトリーヌ様のような方がこられると思っていたようなドレス。 そう。そこまで気をまわしていられないかのように、アニエス様のことを事前に調べられることもなく勝手に用意されたもの。 布は余るほど大きい。 一から作ったほうが早いと思えても、ここにそんな材料もない。 侍女だけで四苦八苦していたら、このドレスを仕立てたお針子がきて、その指示をもらいながらなんとか朝までにはアニエス様のサイズに仕立て直すことができた。 その道のプロとも言えない侍女たちが手伝ってつくりあげたものではあるけれど悪くはない。 徹夜だった。 記念としてとっておいたアンリ様からいただいたドレスのボタンを使わせてもらった。 私のかわりに嫁入りをして幸せになってもらえるようにと願いをこめて。 そんな努力があったというのに、アニエス様の式はマリー様やカトリーヌ様のときに行われたものよりも貧相ともいえるものだった。 宴だって行われることもなく。 その理由は誰に聞かなくてもわかってはいる。 先の王様が亡くなられて間もないから。 それでもオリビエ様は新しい王様として、アニエス様の婿として臣下にその姿を見せられた。 マリー様やカトリーヌ様を迎えられたときよりも凛々しく、マリー様やカトリーヌ様を迎えられたときには見せることもなかった小さな笑みまで見せられて。 それはそういう演技なのかはわからないけれど。 オリビエ様が王様として立ってくださっていることに、少しだけ安心できたものだった。 アニエス様にご用意されていたものはすべてアニエス様には大きなもので。 オリビエ様と初の夜を過ごされる場には用意しきれずに大きなナイトウェアを着ていただいた。 とてもとても不恰好ではあるのだけれど。 ……可愛らしい。 可愛らしく可愛らしくと侍女たちが仕立てたアニエス様にはメイクなんてすることもなく。 オリビエ様の夜のお世話をするナタリー様もそれでいいかのように手直しはほとんどされず。 アニエス様を王様の私室まで送って本日の私の仕事は終了。 なにがあってもアニエス様を汚すなとオリビエ様に思っていたのに、翌日、アニエス様のお風呂のお世話をさせていただいていると、その肌にはキスマークと思われるものがついていた。 なにをしてくれている?あのロリコンっ。 などと思っても決して言えない。 せめてまだ汚れていらっしゃらないことを思っていたら、アニエス様はしっかりとオリビエ様に処女を奪われたらしいと、侍女たちみんなが落胆してしまうような報告をナタリー様からいただいた。 「なにを落ち込んでいるのです?おめでたいことですよ」 なんてナタリー様はまったく気にしてないかのように仰ってくださる。 私たちの天使が一夜にして汚された。 この悲しみはきっとナタリー様には伝わりそうにない。
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