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脱、貧乏は思ってはいたけど、こんな都会に出てくるとは思ってもみなかった。
いいとこ地方領主の坊っちゃんの嫁。
しかも2番目か3番目あたりのどうでもいいとこ。
びくびくしている私を乗せて馬車は砦での検問もなんなく通ってまっすぐに城へと向かう。
町に入ると賑やかだった。
私は売られる子牛の気分だ。
更に馬車は城の門もなんなく通って城内を進んでいく。
綺麗で立派な建物や広くて綺麗な庭を見ながら進んでいく。
さすがお城。
豪邸もいいところ。
馬車から飛び降りたいと何度思ったかわからない。
逃げたかった。
ボロボロの屋敷に戻りたかった。
「じゃ、モニカお嬢様、私はこれで。たまには私ども小間使いにも手紙でも書いてくだせぇ。もしも結婚となったときには報告をしてくださいよ?では、達者で暮らしてください」
下男は別れの挨拶をそんな言葉で済ませて、私をおいていこうとする。
「待ってっ。ここからどういけばいいかわからないっ」
「すぐそこにある建物の入口に入城許可申請所ってありますよ。ほらほら、さっさといかないとお偉いさんにどやされますぜ」
「もう帰りたいっ」
「モニカお嬢様がここで今日からお勤めされる許可は出ているんですから勝手に帰ったら怒られます。ほら、いったいった。お嬢様、しっかり働いてきてくだせぇ」
「やだーっ!!」
なんて喚いてみても。
おっさん御者は甘くもなく。
すがりつく私をおいて逃げるようにいってしまった。
ひどいと思う。
まだ15の私をおいて逃げやがった。
任されたのなら最後まで連れていきやがれと思ってみたりもする。
手荷物は大きな鞄1つ。
そこの入口に入ることも躊躇って動けない。
私がこんなところで働くのがおかしい。
どうせなら野良仕事がいい。
畑耕して種まいて育てるほうがいい。
いつまでもいつまでも入らずにいたら、こんな広い城内でも人はいたらしい。
「そこのお嬢さん」
なんて声をかけられて振り返ると、そこには立派な服を着た男性が立っていた。
私より年上の貴族のような人。
優しげな顔をした人。
ときめいた。
こんな人の嫁になりたかったのに、なんて。
「侍女として雇われてきてくれた子だよね?こっちだよ」
なんてそのお兄さんは私を案内してくれる。
ときめいた気持ちのままついていってしまう私がいる。
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