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待って待って待ってと焦ってきた。
そうだ。アンリ様が仰っていることをよく考えろ。
私を愛人としておくなんて一言も仰っていらっしゃらない。
しかも相手は王様であるオリビエ様に。
それは結婚であって、王子様の嫁だ。
ジャックさんも……兄。
どちらも雲の上の更に上のような方々。
そんな方の嫁になんてなれるわけがないっ。
「どちらもお断りをっ」
と、私は決断しようとしたのだけど。
「却下。どちらもおまえがどんな傷を負っていても引き受けてくれる、いい引き取り手ではある。おまえの生家に顔向けできないことになっている僕がとれる策はおまえを嫁がせること」
「そんなの内乱では多くの人が傷を…っ」
「おまえは貴族階級の家の娘だ。どんなに小さな家でも貴族。安全の保証をもって城に仕えてもらっている。ジャックの判断で他の侍女ではなく、おまえを連れていったと聞いている。そこで怪我をさせているんだからその責任は僕にもある。……おまえが責めないでくれているだけだ。僕を、ジャックを、この国を。責めないでくれて国に奉仕する気持ちがまだあってくれるのなら、アニエスも気に入っているおまえを城から放り出すわけがない。おまえの世話をして償いをするに決まっているだろう?」
オリビエ様はそんな言葉を私にくださった。
放り出さない。
そのお気持ちがうれしくて、涙が目に溢れてくる。
「おまえはアニエスをかばって怪我をした。おまえがいなければアニエスは死んでいたかもしれない。おまえを連れていったジャックの判断は正しかったと僕はみている。他の内乱で傷ついたすべての者の傷の責任は負えきれないが、おまえのその傷に対する責任は負う。そうなるのは当然だろう?」
オリビエ様は更に仰ってくださる。
この国に、アニエス様に、王様に仕えていたい気持ちが溢れてくる。
アンリ様にもらっていただくとそれはできない。
遠く離れた場所にいくことになる。
どうしてもどうしても、それをオリビエ様の償いにしてしまいたいのなら…。
……ジャックさんを犠牲にしてしまおう。
それしか考えられない。
結婚してもどうせなにもない。
「待て、オリビエっ。モニカを僕に渡せっ」
アンリ様が慌てたように声をあげられる。
「兄上はシェリーに慈悲をかけまくっておいてください。モニカはジャックの嫁にします。どうしてもうまくいかなかった場合は兄上がモニカを引き受けてくだされば、僕が安心できます」
「オリビエ…。僕への慈悲はないのか?」
「兄上がケビン兄上を止めてくださっていればよかったのにと思うところもありますので」
「僕にあの兄上を止められるわけがないだろうっ?おまえは僕の領土だというのに物流も止めてくれて。板挟みになっていたのは僕だっ」
「兄上がケビン兄上を領土内に入れられるからでしょう?」
なにか兄弟ゲンカが始まった。
私をそっちのけで言い合いはじめてくれた。
私はどうすればいいのかわからず、ロベール様がこちらにどうぞとソファーへ座らせてくれて、ロベール様が淹れてくださったお茶をいただく。
「モニカさん、まだアンリ様に求められていたんですね。あれは王様がまだ妃をとっていらっしゃらない頃でしたから、もう6年くらい前のことでしょう?」
ロベール様もあのことを覚えていらっしゃったらしい。
アンリ様が私をもらうと仰り、額をあわせられたあれは、それほど印象的なことだったのか。
古い話だなぁと思う。
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