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案内されてついていくと建物の中。
立派な石造りの壁の建物。
ちゃんとついてきているか彼は時々振り返ってくれる。
わきゅわきゅな気持ちでうれし恥ずかし。
可愛い子に見られたくて、逃げた態度は見せずに礼儀正しくついていかせてもらう。
これはもう私の初恋ともいえるかもしれない。
ただ、このお兄さん、貴族…ではなさげ。
すれ違った兵士には敬礼して頭を下げられ、侍女たちも立ち止まって道を譲る。
あれー?と思っていたら。
城内の侍女をまとめる執務長のいる部屋に入って。
「アンリ王子。なにをなさっているのですっ?」
そこにいた白髪のお婆ちゃんみたいな人が驚いたようにお兄さんに声をかけた。
王子、っていった。
「いや、迷っていたみたいだから連れてきてあげたんだ。兄上に見つかるとまた以前のように即辞めますといって出ていっちゃうかもしれないからね」
お兄さんは私ににこっと笑いかけてくれる。
「ケビン様が辞めさせたわけではありませんよ。新人とは知らずに声をかけてできないとわかって睨まれただけですから」
「そんなのこわいよ。ね?…えーと、君の名前は?」
王子様はここにきて名前を聞いてくださった。
王子様に名前を問われた。
あまりのことに頭が真っ白になる。
王族なんて雲の上の更に上のもっと高いところにいる人のはずなのに。
私のような貧乏貴族が知り合えることもないはずの方なのにっ。
「……今日くる予定の者はランベル家の三女、モニカさんのはずですが」
お婆ちゃんは言ってくれて我に返る。
「モニカ・ランベルと申しますっ」
私は慌てて言って、ぺこりと頭を下げる。
アンリ王子様は笑って、私の下げた頭を優しく撫でられて。
「がんばってね、モニカ」
なんて言ってくださった。
私は真っ赤になって顔も上げられなかった。
私の初恋…だと思う。
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