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*小さな命*
「んあ」
【もういいかげん諦めてきた。依頼だ、三十分で着く】
「んだよ、その大きさ。堕ろし?」
「いや正確には違うが死産だ。へその緒が首に巻きついてな、かろうじて出産はしたそうだが、心音は一時間持たなかった」
「母体から出た以上出生になる。出生届と死亡届を両方提出したそうだ。
出生届を出したから家族だけで見送りたいらしい」
いつもより少し硬めの口調で十夜が説明をする。
「特に外傷はないから顔色だけ少し明るくしてほしい。それから希望の衣服はこれだ」
十夜が箱から白いレースで縁取られた布を渡す。
「これは?」
「おくるみだよ。退院の時やお宮参りなどに使う。まあ、新生児の正装みたいなものだろう」
「ふうん・・」
ガチャン
処置室のドアが閉まる。
「小さい手だなあ、お前。血管がわかりづらいよ」
「生まれたてって目が見えるのかなあ?お前のことを愛していた人達の顔は見られたか?」
正確な処置を行いながらも、ツクモの頬には熱い流れがマスクを濡らしていた。
「・・寒い。やべえ」
処置室から出てきたツクモはソファでひざを抱えていた。
見つめた手は震え、背筋は凍る。
「ツクモさーん?」
アオイが裏口からやってきた。
『やばい絶対やばい。帰さないと』
ソファに丸くなっているツクモを見るなり、
「大丈夫ですか?どうしたんですかツクモさん。体調でも悪いんですか」
「ア、 アオイくん。大丈夫だからきょうは帰っていいよ」
「今日のお仕事が辛かったんですか?」
ツクモの顔を覗き込むようにアオイがたずねる。
「いいから、帰れ」
強い口調でツクモがアオイを突き放す。
「寒いんですか?」
心配そうにのぞき込むアオイにツクモはギリッと歯を食いしばり、
「俺は警告したからな!」
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