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こうして、ふたりでまったりしているといつの間にか日が暮れ始める時刻になってきた。
成都はそれを甘味処の室内にたて掛けられた掛け時計の針が示す時刻を目にしてそれを察した。
「もうすぐ夕方ですね。」
成都は、アベルとの会話がひと段落した頃に、彼にそう言った。
「え? もうそんな時間?」
アベルは少し驚いた表情を見せる。
二人は、あれから家庭の事情以外にも大学予科での出来事などについて話したりして、気づけば親しくなっていた。だが、成都は未だアベルに敬語を使ってしまう。ちなみに、アベルは成都のことを「成都」と呼んでいて、成都はアベルのことを「アベルさん」と呼ぶようになった。成都は相手を名前で呼べるようにはなったものの、未だに「さん」をつけてしまうのだ。大人しい性格の成都は、相手になれるまでに時間がかかるのだった。
「…じゃあ、そろそろここを出ようか。」
「そうですね。」
二人はそんな会話をすると、甘味処の店員に挨拶をしてから、そこを後にした。(この甘味処では、食べた品物の支払いは前払い。)
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「え…?」
甘味処の建物から出た次の瞬間、成都はある人物を目にした。
「…成都。」
その人物は成都の名を呼び捨てで下の名前で呼んでいる。容姿は至って普通の学徒だが、声は色っぽい。だが、その声の色気は少し暴力的なものだった。
成都が毎日会っている人物だ。
そう、彼は村上 國雄だったのだ。
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