錦佳楼の咎人

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 薄暗い廊下を案内に従って歩き、普段は客が一夜を過ごすのに使われない部屋が並ぶ奥まで来る。  扉を開けた案内はすぐに下がり、充顕だけが沈黙の中に取り残された。  期待と恐れにも似た感情が千々に入り混じって乱れ、張り詰めた鼓動に痛みすら感じるかと思われた。  そうしてようやく部屋に足を踏み入れれば、待っているのは薄暗闇。  微かに残る香の他に、気だるげな匂いが鼻をくすぐる。  古風な高坏(たかつき)に火をさせば、待ちかねた部屋の全容を目にすることができた。 「永」  短く名前を呼んでも艶やかな唇を引き結び、一言たりと言葉を発しようとしない。  自分でも驚く程甘露な響きが籠ったこの声が、少年によって完璧なまでの拒絶に晒される事さえ心地よかった。 ―――嗚呼、溺れている。  陶酔の自覚が雑多な感情を洗い流し、ただ純粋に目の前の肢体を求める欲望だけが熱く、熱く溶けてゆく。  十三の少年の体はまだ未熟で、縛られた両腕が痛々しく、同時に耐えがたく官能的に眼へ映った。  壁際に寄せられた布団へ歩み寄るごとに、緊張で強張るその表情が愛おしい。  最初は手も付けられない程に抵抗したものだが、徹底的に体へ教え込まれた結果、永は充顕に逆らえなくなった。  敵意すら明確に向けられる事は減り、もはや(ほこ)りを傷つけられてしまった哀れな子は、徐々にでも確かに堕ちてゆく。朧げなその自覚がたまらなく恐ろしいらしく、永は自殺を試みる事すらあった。  けれどそれすら許されない残酷な絶望の檻に、彼は囲われている。
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