25人が本棚に入れています
本棚に追加
スカイツリーのチケット売り場の入り口の前で、榊孝太郎は長坂ゆいを待っていた。
祖父祐太郎が以前、恋した人に会うためだった。
祐太郎は、ゆいが結婚してからずっと、千葉で暮らしていると手紙で知ったのだった。
そしてスカイツリーはゆいの希望だった。
杖をついた小柄な着物姿の老女が、若い男に支えられながらこちらに向かって歩いてくる。
老女は皺々の手に見覚えのある封筒を持っていて、孝太郎はその老女が長坂ゆいだと確信し足を2人に進めた。
「長坂ゆいさんですね?」
孝太郎が声をかけると、ゆいは嬉しそうに孝太郎を見た。
「祐太郎さん!祐太郎さんにそっくりだわ」
まるで少女のような笑顔でゆいは言った。
「はじめまして。孫の榊孝太郎です」
孝太郎が頭を下げると、ゆいの孫らしき若い男も頭を下げた。
「孫の長坂知英です。祖母だけでは心配だったのでついてきたのですが……」
知英は孝太郎が1人だったので不安になった。
「すみません。祖父はもう寝たきりの生活で、あの手紙も僕が祖父の言葉を代筆しました。とても会いたがっていたので、本日も僕が代わりに。これが今の祖父です。ゆいさんに見せるのに、恥ずかしい写真は見せたくないと、何度も撮り直させられました」
笑いながら孝太郎はスマホの写真をゆいに見せる。
最初のコメントを投稿しよう!