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騎士団長の依頼
エニーに言われたギルドの内の応接室に行くと、凜と一人佇む女性が待っていた。彼女がたぶん依頼人だろう。流れるような金色のロングヘアーに、澄んだ蒼い瞳。銀のプレートアーマーを身に付け、腰にはレイピアを携えていたその姿は正に、騎士という印象をリオは受けた。リオは向かいの席に座り、軽く自己紹介をする。
「初めまして。私の名はリオ・デューク。あなたが依頼人の方で間違いないですか?」
「いかにも。私が依頼した。名をルリエッタ・ルディアーノという。この町の領主、オネスト伯爵下白薔薇騎士団の団長を務めている。今回は依頼を受けてくれて、どうもありがとう」
「いえいえ。仕事ですから。さっそくですが、詳しく話を聞かせてもらえませんか」
「構わないよ」
ルリエッタはエニーに淹れてもらった紅茶を一口飲んだ後、ゆっくりと話し始めた。
「私が落としたのは、長年愛用しているミスリル製のレイピアだ。場所はこの町から程近い所にある、アルヒ城跡の地下ダンジョン」
「アルヒ城跡?」
リオは疑問を抱いた。アルヒ城跡の地下ダンジョンとは、過去の戦争によって破壊された城の地下区画だけが残り、そこに魔物が住みついてダンジョンとなった場所だ。とはいえ、アルヒ城跡は数あるダンジョンの中でも比較的攻略が容易なダンジョンで、新米の冒険者や騎士の訓練に使われているくらいだ。騎士団長であるルリエッタほどの人物がヘマをするようなダンジョンではないはずだが……。
「言い訳ではないが、あの日のアルヒ城跡は少し異常だった」
「異常?」
「あぁ。二日前、私は新米騎士の訓練教官として、彼らとダンジョンに入った。攻略は無事終わったと思ったのだが、外に出て点呼をとると、二人の騎士がいなかった。私は他の騎士たちを残し、単独でダンジョン内を捜索した。すぐにその二人は見つかったのだが、二人はミノタウロスに襲われていた」
「ミノタウロスですって?!」
ミノタウロスとは、牛の頭に人間の体を持つ魔物である。本来はかなり高難易度のダンジョンにしか生息しておらず、討伐には多くの冒険者たちでパーティーが組まれるほど強力な魔物である。
「原因は?」
「わからない。とにかく二人を逃がすのに必死だったからな。なりふり構わず戦闘している間に、レイピアを落としてしまったようだ。まったく、騎士団長が聞いて呆れるな」
ルリエッタ苦笑しつつ、再び手元の紅茶を口に含んだ。
「なるほど……大体わかりました。少し懸念すべきこともありますが、できる限りの対策をして、明日から捜索を開始します。ルリエッタさんはどうしますか?」
「無論、私も同行させてもらう。人手は多い方が良い」
「わかりました。正直、とても助かります。必要なものは、こちらで用意しておきますね」
「了解した。それから、短い間だがよろしく頼む。リオ殿」
ルリエッタは僅かに微笑みながら、右手を差し出した。リオも笑顔でその手を握り、固い握手を交わした。その後、細かい事柄や明日の集合時間、報酬の額などを相談し、今日は解散となった。
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