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一件落着
「お疲れ、リオ殿」
「そちらこそ、お疲れ様です。ルリエッタさん。レイピアも見つかって一安心ですね。」
「ああ、本当にありがとう」
ルリエッタとのコンビネーションで何とかミノタウロスを撃破し、レイピアも無事見つけたリオ。だが、優しげな口調と裏腹に、何故か顔つきはまだ厳しいままであった。
「まだ気になる事でもあるのか?」
「はい。あのミノタウロスの事です。確かにアイツは強力な魔物でした。気を抜けば殺されていたかもしれません。でも、本物のミノタウロスは、僕ら二人で倒せるほど弱くはない」
「?!」
リオの指摘に、ルリエッタはハッとした。言われてみれば、あのミノタウロスは、彼女がかつて別のダンジョンで遭遇した個体よりも格段に弱く感じたのである。
「では、あのミノタウロスは一体どこから……?」
「簡単ですよ。アイツは魔法で生み出された魔物、魔法獣だ。そして、犯人は……。おーい、そこにいるんでしょう?早く出てきなさい」
リオがこの倉庫のドアを一瞥すると、黒いローブをきた少年が現れた。年は十四、五歳くらい。胸に星型のマークがあるので、おそらく魔法を学ぶ教育機関、通称アカデミーの生徒だろう。リオがこちらへ手招きすると、少年は俯きながら、恐る恐る近づいてきた。そして二人の前に立つと、地面に頭を激突させる勢いで、いきなり土下座をした。
「すみませんでした!あなた方に倒していただいたあのミノタウロスは、僕が魔法で生み出したものです」
少年の告白に、リオは思わず溜息をついた。
「やっぱり。どうりで魔法が良く効く訳です」
本来、ミノタウロスは魔法耐性が高い魔物であるため、リオが始めに放った光系魔法ではせいぜい気を引くことくらいしかできない。リオもそのつもりで使ったのだが、先ほどのミノタウロスには視界を封じられるほど効果があった。この時からリオは違和感を覚えていたのである。
「大方、召喚魔法の練習中に偶然アイツを召喚できたものの、コントロールに失敗。止めることも出来ず、せめてもと思い、様子を見に来ていた。このダンジョン内に他の魔物がいなかったのは、ミノタウロスが全て食べてしまったとか、そんなところでしょう」
「はい。その通りです」
リオの推理に、申し訳なさそうに頷く少年。
「本当にすみませんでした!いくら召喚魔法のテストの練習とは言え、多くの人に迷惑をかけてしまいました。下手したら死人が出ていたかもしれません。お願いです、僕を憲兵のところへ突き出してください!僕はそれだけの事をしてしまったんです!」
そう言いながら、泣き出す少年。ルリエッタは少年の元に近寄り、そっと肩に手をおいた。
「顔を上げろ、少年」
「えぇ?」
涙で頬をぐしゃぐしゃに濡らしたまま、ルリエッタの方を向く少年。その顔に優しく微笑みながら、ルリエッタはゆっくりと話す。
「この事は気にするな。誰にでも失敗することはある。大切なのは、その失敗を次にどう活かすかだ。制御に失敗したとは言え、君はミノタウロスを召喚できるほど魔法の才がある。これからはその才を磨き、今日の事を打ち消せるくらい、魔法で多くの人々を救っていけるような、立派な人間になれ。それが、君の償いだ。わかったな?」
「~~っ……」
その言葉を聞いた少年は、嗚咽をもらすほど泣き続けた。ルリエッタは、その少年が泣き止むまで、いつまでも、いつまでもその頭を撫でてやったのであった。
無事ダンジョンを抜け、少年を家まで送り、二人は町まで戻ってきた。
「今回は本当にありがとう。リオ殿」
「いえいえ。こちらこそ、ありがとうございました。ルリエッタさんがいなければ、あのミノタウロスに殺されていましたよ」
「そう言ってもらえると、一緒に戦ったかいがあるな。ところでリオ殿、報酬は本当にそれでいいのか……?」
怪訝そうな顔をするルリエッタに、リオは満面の笑みで答える。
「もちろん!今日はそんな気分ですし!」
「そうか……わかった。リオ殿がそれでいいのなら。では、早速飲みに行こうか。報酬通り、私のおごりでな」
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