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「ねえねえ、血塗れ紗江ちゃん、知ってる?」
蘇芳まゆりは、いつものように眠たげな目でわたしを見つめて、まるで寝言のようにつぶやいた。
平日の夕方、暗くもなく明るくもない、
中途半端な時間の学校のそばの喫茶店はいつものように人が少なく、
ひっそりとした空気に包まれている。
わたしはゆるゆると首をふり、
まゆりの顔を見つめた。
「なにそれ?新しいホラー映画?」
「うーん、最近流行ってる、おまじない?かな…」
冷めたコーヒーを一口飲むと、
わたしは努めてゆっくりと聞いた。
「どんなおまじないなの?なんか、エグい名前してるよね。」
「なんかね、夜9時9分9秒にSNSの自分の投稿に#血塗れ紗江ちゃんってハッシュタグ着けて、殺したい相手の名前を書いて投稿すると、願いが叶うんだって。」
「願いが叶うって…それって殺されちゃうってこと?」
まゆりは窓の外を見つめ、面白くなさそうにつぶやいた。
「ただの噂っぽいけどね、私もよく知らないんだけど、9秒ジャストに投稿するって無理じゃない?下手したら自分のアカウントで殺したい相手の名前を曝しちゃうことになるし、リスクありすぎだよねw」
そうつぶやくと、けらけらと笑った。
「うまくいくと、」
わたしは思ったよりもうわずった大声を出してしまい、あわてて声をひそめた。
「うまくいくと、その投稿はどうなるの?」
まゆりは、おや、と左の眉を上げわたしの顔を見つめた。
「うまくいったら、その投稿は投稿したはずなのに消えちゃうんだって。それできっかり9日後にしんじゃうんだって。何、興味あるの?」
「その、さえちゃんってどんな漢字書くの?」
まゆりは筆箱を取り出し、メモにさらさらと漢字を書いた。
「ねえ…これって…」
「なんかね…」
まゆりは、わたしの声に被せるように口を開いた。
「なんかね、紗江ちゃん、怒ってるんだって。」
わたしは思わず席を立った。
「紗江ちゃん、探してるんだって、スッゴい悪いやつ。」
去り際にまゆりは、つまらなさそうにつぶやいた。
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