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貴女は、口数が少なかった。
そのことは最初こそ静かな湖面のような印象を与えたが、森の猿どもは波を求めていた。貴女がそれに応えなかったから、猿どもは次第に態度を変えた。
「十六夜さんって見た目は綺麗だけど、何か素っ気ないよね」
「お高くとまってるみたいでムカつく〜」
「喋れないんじゃ面白くないよな」
「ヤれるけど付き合えねぇなー」
二週間もしないうちに貴女の周りには誰も寄りつかなくなり、結果的に僕は貴女の姿をいつでも見ることができるようになったけれど、僕の目に映るようになった貴女は、心なしか落ち着かないようだった。そんな貴女もまた美しくて、思わず貴女に顔を向ける瞬間が増えてしまった。
きっと貴女も誰かを求めていたのだと思う。あの猿どものように容易く態度を反転させたりしない、貴女に寄り添う誰かが。
……いや、こんなのはしょせん僕の願望だ。本当は僕が、貴女のことを、求めていただけだと思う。
それでも、あるいはだからこそ、初めて目が合った日のことを、僕は忘れない。
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