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何気なく向けた視線の先にあった、二つの星の輝き。それはしばらくしてから、過剰に輝き始めた。
涙だ。貴女はすぐに隠してしまったが、貴女は泣いていた。僕にしか見えなかった流れ星。
僕の願い事は、貴女の涙をぬぐってあげることだ。僕は流れ星に誓った。それをいつか必ず、叶えると。
そのときは、いつかではなく、その日のうちにやってきた。
貴女は、放課後になって人がいなくなっても教室に残っていた。日直の仕事を終えて荷物を取りに戻ってきた僕は、座る貴女を見てとっさにカーテンを閉めた。斜めに差し込む暮れかけの太陽の光は貴女には強過ぎて、溶けてしまいそうな気がして。
僕のその行動が疑問だったのか、貴女は僕に視線を向けた。蛍光灯もつけていない、少し暗くなった教室で、星が静かに瞬く。僕はそのまなざしに縛られて、動くことができない。
「もう、下校時間ですよ」
絞り出したことばは、事務的で、しかも敬語だった。
「……はい」
貴女も敬語だった。小さく返されたその二文字だけで、僕の心臓は跳ねるようなリズムを刻む。
ゆっくり立ち上がって扉のほうへ向かうその背中に、僕の目は釘づけになる。すらっと高いシルエットに、ゆったり揺れる黒い髪。
そのまま姿が見えなくなるまで眺めているつもりでいたら、貴女がふいに振り返って、こう言うから。
「帰らないんですか?」
僕はすっかり慌ててしまって、机の脚に躓いて転びかけて。
そのときに聞いた貴女の小さな笑い声を、僕は一生忘れることはないだろう。
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