自信満々準備万端な勘違い

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自信満々準備万端な勘違い

#深夜の真剣物書き120分一本勝負 に挑戦しました。 ②考証 のお題を使用しました。沿ってるかは自信ないです。。 --------  おっかしいな……。  私は自分の証明が見事にひっくり返ってしまったことに呆然としていた。頭が真っ白だ。 「何をぼけっとしている。俺からすれば、自信を持っていたことの方が驚きだが?」  恋人になるはずだった想い人は、触れられそうにないほどの冷たい瞳と声でへたり込んだ私を射貫く。ある意味彼のチャームポイントみたいなものだけど、今はただ痛い。 「だって……だって、私だけに優しかったじゃないですか」 「優しかった? 俺が? お前だけに?」  一言一句丁寧に訊き返されるのがきつくてたまらない。それでも私には証拠がいくつもあるのだ。知らないなんて言わせない。 「三日前です。私が廊下でへこんでたら先輩が来て、でも何も言わないでいてくれました。私に気を遣ってくれたんですよね? そういう時はいたずらに声をかけない方が相手のためになりますもんね」 「ミスが減らないお前に呆れてたんだ。いつになったらマシになるんだとな」 「そ、その前には誤字のあった書類の再提出を命じた時に、頭をポンってしてくれたじゃないですか。それは好きな人から女子がされたら嬉しい行動ランキング上位に入るやつですよ!?」 「誤解させたなら申し訳なかった。あれは三回もお前の書類をチェックさせられて、さすがの俺もイライラが抑えきれそうになくてな。張り倒したくなったのをギリギリで堪えたからだ」  ひどい。私はあれで完全に恋に落ちたっていうのに、そんな残酷な種明かしがあるか。  全身の力という力が消えそうだ。横たわったらきっと起きられない。  でも諦めない。それより前にも、証拠となる言動は揃っている。 「そ、そういえば! 部長に頼まれて一緒に資料を探している時ですよ。私が躓いて転びそうになりましたよね? そうしたらいつもそっけない態度ばっかりだった先輩が抱き寄せて助けてくれました。絶対無視するって思ってたのに助けてくれたから、これがいわゆるツンデレなのかって」 「……ああ、二ヶ月くらい前のやつか。あれはお前が転んだ先にパソコンが置いてあったから、故障させないために不本意ながら助けたんだ。資料室のデータベースだぞ? 一大事どころの話じゃない」  そ、それは確かに最悪クビになってもおかしくない、いや、クビだけじゃ済まないところだった……。先輩にも連帯責任が降りかかっていたかも知れない。 「その件に関しては、納得しました。大変申し訳ありませんでした。でも、まだまだあります」 「もういらん。どうせ勘違いだ」 「会議で発表していたプレゼンで、私が勘違いに気づかないままだったところに恥かかないよう訂正とフォローを入れてくれました! 嫌いだったらそういう態度は取りませんよね?」 「上司の俺の評価にも関わるからに決まっているだろう。お前のためでは断じて、ない」 「出社して挨拶した私の顔を見て慌てて目を逸らしたことありましたよね! 今思い出しました! あれは正真正銘照れ時の反応! もしくは不意打ちにやられた反応! 恋愛ドラマとか漫画で腐るほど見ましたよ!」 「お前のすっ飛んだ理屈の元凶はそれか……どうしようもない」 「私のバイブル達を貶めないでいただきたい! それよりどうなんですか!」 「もちろん盛大なお前の勘違い、というか間違えた気の遣い方だったんだなと今思い知ったよ。口の両端に食べ物のかすみたいなものがついてたから笑いそうになっちまったんだよ。一応女相手に失礼だろう?」  うそ……。  自信満々に繰り出した証拠がすべて勘違いと反論できない答えで叩き伏せられてしまった。  本気で立ち直れない。ふられただけじゃなくて嫌いでしたと最悪の告白までされるなんて、ほんの数分前の私は想像できた?  先輩は参考書によれば典型的なツンデレのはずなのに、デレは存在すらしていなかった。恋愛経験が乏しいせいでこんな結果になってしまったの? 「……せんぱい……」 「いいからとっとと頼んだ資料持って来い。いつまで待たせるつもりだ。ご丁寧にタイトルを一言一句正確にメモしてやったんだから間違えたとは言わせないぞ? わかってるな?」  初めての笑顔がナイフみたいに鋭いなんて、ある意味夢みたいです先輩……。
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