怪雨の話

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怪雨の話

 九月の未だ残暑厳しい頃。落ちる感覚で目が覚めた。時刻は全てがオレンジに染まる夕暮れ。ちょっと昼寝をするつもりだったが爆睡してしまったらしい。  何か、夢を見ていた気がする。奇妙な悪夢を。だが思い出せない。まぁ思い出せないなら仕方ないと諦め、体を起こした。……何をしよう? 夕飯にはまだ早い。家事はやる気が起こらない。そうだ、 「散歩しよう」  昼間の暑さが残る空気が全身にまとわりつく。若干涼しかった室内を思い出し、外へ出たことをほんのちょっぴり後悔したが特に引き返そうとは思わない。途中でアイスを買ったりすればそんな後悔もなくなるだろう。  自分自身の機嫌の取り方を考えながら歩いて数分。強い風が吹いた。辺りに立ち込めていた熱気を掻っ攫っていくような突風。それが止むと、空気は一変してひんやりとしたものになっていた。なんだったんだろう?首をかしげていると。 ビチャッ  親方ァ!空から魚がァ! ……いや、マジで。食卓に並んだら一番のメインになるであろう大きさの魚が一匹、空から叩きつけられた。えっ、何? どこから来たの? 恐る恐る魚を拾い上げ空を見上げる。曇天が広がっているだけだ。  そこそこに重い魚を抱えながら困惑していると、また強風が吹き始めた。しかし今度のそれは止む気配がない。それどころかどんどん強くなる一方。ついには俺の体を空に掻っ攫った。どんどん上がっていく高度。眼下に広がる町。雲までもが下に見え始めた。これはもしや空中散歩?  ワクワクしたのは束の間。風がこれまた唐突に止んだ。え、この高さはマズくない? マズかったらしい。体が重力に従い始めた。思わず手放してしまった魚。その魚も重力に従ってはいるのだろうけれど俺の方が早い。どんどん魚が小さく遠くなっていく。このままじゃ地面に叩きつけられる! 「うわぁぁぁぁぁぁっ⁉」  落ちる感覚で目が覚めた。空は夕暮れ。しまった、ちょっと昼寝のつもりだったのに爆睡してしまったらしい。自分の部屋の床の上に転がっていた。  何か、夢を見ていたような? しかし思い出せない。まぁそれならそれでいいか。まだ少し頭がぼんやりしている。眠気覚ましに散歩でも行こう。  歩き始めて数分。 ビチャッ 昼間の暑さが残る空気を割いて、空から見覚えのある魚が降ってきた。
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