三章 ハルとアキ

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 物語を読み終えた先輩は、難しい顔をして吐息をついた。  ぼくも先輩と同じ心境だった。これは秋里さんの物語。けっして創作ではないのだ。  本当にあったこと。それもたった半年前に。  音楽を続けたくても、続けられないというのは、どんな気持ちなのだろうか。考えも及ばなかった。  だが、哀しいということだけはわかる。ぼくに置き換えてみれば、小説を書きたくても、その先に見えているのは暗闇だということ。  ──想像したくもなかった。  ぼくは嫌になり、ため息をついた。けっきょく、テリー・レノックスもマーロウも死んでしまった。やりきれない思いだ。  涼ちゃんは寂しそうな瞳をして、答えを求めるようにぼくを見つめていた。ぼくは、なんて声をかけるべきかわからなかった。いや、声をかけないのが、正解なのかも知れない。 「二十七で死ぬか……、悲しいな……」と先輩は呟いた。  ぼくは頷いた。「そうですよね」  先輩は暗くなりかけている窓の外を見て、唸り声を上げた。暗い空に、カラスが二匹飛んでいる。窓に光が反射して、ぼくたちの浮かない顔を写していた。 「俺、秋里さんの自殺状況を調べてみるわ」と先輩は言った。 「そんなこと、できるんですか」 「警察に訊いてみる」 「警察!?」 「知り合いがいんねん」 「は、はあ……。でも、教えてくれますかね?」 「たぶん、逆らわんと思うわ」  ぼくは言葉を失っていた。いったい先輩は何者なんだろう……。警察に訊いてみると言い、逆らわないと言い。 「薬師寺さんは、何者なんすか……」と涼ちゃんは気になっていたことを訊いてくれた。 「何者って、お前たちの頼れる部長さんやがな!」  先輩は臆面もなくそう言った。先輩が何者なのかはわからないけど、そのセリフを自分で言うべきではないことは、しっかりとわかっていた。
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