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物語を読み終えた先輩は、難しい顔をして吐息をついた。
ぼくも先輩と同じ心境だった。これは秋里さんの物語。けっして創作ではないのだ。
本当にあったこと。それもたった半年前に。
音楽を続けたくても、続けられないというのは、どんな気持ちなのだろうか。考えも及ばなかった。
だが、哀しいということだけはわかる。ぼくに置き換えてみれば、小説を書きたくても、その先に見えているのは暗闇だということ。
──想像したくもなかった。
ぼくは嫌になり、ため息をついた。けっきょく、テリー・レノックスもマーロウも死んでしまった。やりきれない思いだ。
涼ちゃんは寂しそうな瞳をして、答えを求めるようにぼくを見つめていた。ぼくは、なんて声をかけるべきかわからなかった。いや、声をかけないのが、正解なのかも知れない。
「二十七で死ぬか……、悲しいな……」と先輩は呟いた。
ぼくは頷いた。「そうですよね」
先輩は暗くなりかけている窓の外を見て、唸り声を上げた。暗い空に、カラスが二匹飛んでいる。窓に光が反射して、ぼくたちの浮かない顔を写していた。
「俺、秋里さんの自殺状況を調べてみるわ」と先輩は言った。
「そんなこと、できるんですか」
「警察に訊いてみる」
「警察!?」
「知り合いがいんねん」
「は、はあ……。でも、教えてくれますかね?」
「たぶん、逆らわんと思うわ」
ぼくは言葉を失っていた。いったい先輩は何者なんだろう……。警察に訊いてみると言い、逆らわないと言い。
「薬師寺さんは、何者なんすか……」と涼ちゃんは気になっていたことを訊いてくれた。
「何者って、お前たちの頼れる部長さんやがな!」
先輩は臆面もなくそう言った。先輩が何者なのかはわからないけど、そのセリフを自分で言うべきではないことは、しっかりとわかっていた。
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