プロローグ

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プロローグ

 峠道を車で走らせている。ワゴンRの走行距離はすでに十四万キロを超え、そろそろ寿命が近づいていた。  ミュージャンという夢の扉を開けられたのなら、その時は車を買い換えようと考えて、もう何年も経つ。扉をノックし続けても応答はなく、潔く諦めてしまうのが吉であることは、薄々感づき初めていた。  プロになるような才能があるやつは、二十七になるまでくすぶっていない。  夢は諦めなければ叶う。  もちろん、そう信じたい。誰よりも信じ続けたつもりだった。だが、現実はそうではない。叶うやつは叶い、叶わないやつはどう足掻いても叶わない。これは運の違いなどではなく、才能がそうさせるのだ。  俺にも才能ある素敵なパートナーがいた。でもあいつは自殺してしまった。俺にはどうすることもできなかった。  あいつと最初で最後のライブを思い出す。あのライブは俺の生涯の中で一番輝き、命を燃やし、そして泣いた、忘れられない大切な思い出だ。あのライブを音楽関係者が見ていたのなら、俺たちは間違いなくデビューできていた。これは自惚れではなく、確信して言えるのだ。それだけ完成度の高いライブだった。  だけれどあいつはもういない。あいつの音楽の話を聞くことも、あいつのギターの音色を聞くこともできない。この喪失感は測り知れない。辛い、という言葉だけでは片付けられない。  こぼれる涙を右手で拭い、俺はハンドルを握った。ぽろぽろと涙は溢れ、視界がかすむ。  俺は今からライブハウスに向かい、歌をうたう。情熱は失われているが、歌詞に込めた想いも虚しさに変わりつつあるが、俺は歌う。夢のために。  それは果たしていつまで?  俺はその問いかけに、ため息をこぼした。  疲れた。  そんな感想が、腹減ったなとぽろり呟くように、簡単に浮かんだ。  思考の薄い俺の頭の中には、愛のロマンスが流れている。クラシック・ギターの音色が、なんとも心地よく、悲しい。  涙を拭う力も、もはやない。
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