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その後もパスワードのことを話し合った。
気がつくと窓の外は暗くなりかけていた。夜が訪れる一歩前の、海の底のような色をしている。
時間も時間だったので、今日のところは解散だと先輩は言った。
ぼくと涼ちゃんは帰路についた。
初登校のときに見た、小さな公園の大きな桜の木は花が散りかけていた。地面をピンク色で彩り、街灯のスポットライトが当たっている。
人も花も、美しい時間はあまりにも短い。
ぼくが桜を見上げていると、涼ちゃんはごほんと演技っぽい咳払いをし、
「キ、キョウは、いとこ同士の恋愛についてどう思うよ」と言った。
「いとこ同士? んんー、特にどうとも思わないかな……。小説でもよくある設定だし」
「そうか! そうだよな、うん」
「それにほら、元首相の菅直人さんもいとこ同士で結婚したらしいし」
「本当か! なら全然おかしくないよな!」
涼ちゃんは嬉しそうにしていた。笑顔を見せ、かすかに鼻歌も歌い、今にも飛び出しいそうなくらい浮ついている。
桜井さんと春馬さんのご両親が厳しい方で、打ち明けられない恋愛をしていたことに、涼ちゃんは哀れみを抱いていた。だからそれを、誰かに肯定されるのが嬉しいのかも知れない。意外に純情な涼ちゃんならば、有り得ることだ。
涼ちゃんの顔を覗いていると、涼ちゃんは赤い顔をして、そして怖い顔をして言った。
「な、なにガンくれてやがんだっ!」
「え、あ、いや……」
ぼくはごめんと謝り、緊張した面持ちで前を向いた。
なんて怖い人なんだろう……。
でも、嘘じゃないんだ。涼ちゃんは、純情なんだ。
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