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それから数日がたった。あいにく情報がないままだった。
桜井さんに秋里さんのことを訊ねてみると、ご存知だった。
でも、そこまで仲が良かったとは知らなかった。というのも、春馬さんから何度か秋里さんの話が出てきたらしいのだが、あまりに熱心に語るものだから、桜井さんはふくれてしまった。すると、秋里さんのことは話さなくなったのだ。
そんなこともあり、秋里さんのことをすっかり忘れていたのである。
先輩は、少しでも情報を得られないかと当てにしていたみたいで、肩をがっくしと落としていた。ぼくはなんの根拠もなく先輩を励ましたけど、あまり効果はなかった。
秋里さんの名前や、春は去りの三人の名前をパスワードに入力してみたけど、駄目みたいだった。
授業中、頭を振り絞り、先生の読み上げる英文をそっちのけでパスワードのことに集中していたけど、なに一つ思いつかなかった。
歯がゆい。一つだけでもいい。これだと思える閃きがあれば、今後の創作活動にも自信が持てる気がする。なんの閃きもない自分に苛立ちを覚えた。
授業が終わり、ぼくと涼ちゃんは部室に向かった。
階段を上がっているお、涼ちゃんは言った。
「薬師寺さん、最近元気がねえなぁ」
「そうだね、心配だよ。いつもはうるさいくらいなのに……」
「お、お前けっこう酷いこというな」
「これは褒め言葉だよ。そんな先輩が好きだもの」
涼ちゃんはくすりと笑った。「大胆な告白だな」
「先輩の前では言えないけどね。恥ずかしいし、きっと調子にも乗るし」
「やっぱ酷いなあ」と涼ちゃんは笑った。
部室に入ると、いつもみたいに先輩が先にいた。でも、ぐったりと椅子に腰かけ、口をぽかんと開けている。涼ちゃんが言っていたように元気がないのだ。
ぼくは机にカバンを置くと、見かねて言った。
「先輩、本格ミステリーについて語ってくださいよ」
すると先輩は目をかっと見開いた。
体を力強く起こし、にたりと笑った。どうやら覚醒したようである。どうやら扱いが簡単なようである。
涼ちゃんは顔を綻ばせた。
「しょうがないなーほんまキョウは〜」
「すいません」
「じゃあそうやな〜。なに話したろかなー、涼子もいるからあまりにマニアックなのはあかんやろしー。どうしよぉ、やっぱ話さんとこかなっ」
ぼくは少々いらいらしていた。元気を取り戻して良かったけど、それを代償に面倒くさくなってしまった。
「うそうそ、そんな悲しそうな顔すんなって! じゃあ今日はヴァン・ダインについてはなそ──ん?」
その時、二度ノックがあった。先輩は言葉を切り、扉に目をやった。二度ということは、依頼人ではないだろうし、お客さまだろうか?
「はい、どうぞ」と先輩は返事をした。
部屋に入ってきたのは、他校の制服を来た女子生徒だった。
健康的な褐色な肌をし、髪はショート。目がくりくりとして童顔だからか、ぼくよりも年下に見える。
「どちらさんで?」と先輩は訝しげな顔を浮かべ言った。
「初めまして、新田花恋(かれん)と申します。新田秋里の妹です」
先輩は口をぽかりと開けた。本当に待ち望んでいた人が来て、虚をつかれたらしい。
「妹さん……、ほんとうに……?」
花恋さんは力強く頷いた。「本当です」
真剣な目を見ていたらわかる。嘘偽りではない。
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