三章 ハルとアキ

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 ぼくはあらためて言った。「どうしたの?」 「いや、解ったんだ」 「ん? なにが?」  と訊いたと同時、叔母さんが扉を開け出ていく音が聞こえた。 「どうして二十七の誕生に自殺をしたのか、解ったよ」 「ほ、本当に?」 「うん」と涼ちゃんは頷いた。「二十七で死ぬのが理想だったんだ。二十六でもなく、二十八でもなく」 「どうして?」 「単純な話だよ。昔の有名なミュージシャンの多くが、二十七で命を落としているんだ。春馬さんや秋里さんが好きと言ってた、ジミー・ヘンドリックスなんかがそうだ。思い出したよ。  二十七クラブっていう言葉まで存在するくらいだ。二十七歳というのは、ああいう人たちのある種、憧れでもあるんだよ。もし余命まじかで数年後には死んでしまうとすれば、二十七歳で命を落とそうと考えてもおかしくない。秋里さんは、音楽に心酔していたしな。  だから、秋里さんが残した物語にも、二十七で死のうって書いてあったんだよ」 「ああ、なるほど……。どうせなら、自分も憧れの中で死にたいと」 「そういうことだろうな。そうして二十七の誕生日になり、死を選んだ。  どうだ? 間違ってるかな……」  ぼくは首を振った。「そんなことはないと思うよ。それで説明できるもの」  秋里さんの気持ちは、正直ぼくにもわかった。余命わずかな儚い命なら、死に際は自分で選びたい。それは、家族に見守られながら眠りたいと願うのと同じようなものだ。 「これを先輩にも教えてあげようよ」とぼくは言った。 「そうだな、電話してみるか。キョウは電話番号知ってんのか?」 「うん、知ってる。かけてみるよ」  スマホを取り出し、先輩に電話をかけた。二、三度コールしたあと、先輩は応答した。外にいるのか、かすかに自動車の音が聞こえる。 「もしもし、どしたキョウ。偉大なる先輩の声を聞きたくなったんか? しょうがねえな~」 「違います」とぼくはぴしゃりと言った。「違います」 「わかってるから二回も言うな!」先輩は嘆息をついた。「それでなんや」 「それがですね、秋里さんがどうして二十七で命を落としたのか、涼ちゃんが答えを見つけたんです」 「ほんまか」 「ええ。じゃあ涼ちゃんから説明してもらいます」  ぼくは通話をスピーカーモードにした。  涼ちゃんはぼくの方を見て頷くと、説明を始めた。  話を聞き終えた先輩は、納得して、 「なるほどなあ」と呟くように言った。「それで間違いないかもな」 「そうですよね」とぼくは言った。「それを聞いたとき、ぼくも納得しましたもの」 「涼子、でかしたな」 「ありがとうございます」と涼ちゃんはぺこりと頭を下げた。 「実はさ、俺も解ったことがあんねん」 「先輩もですか」とぼくは言った。 「そう、秋里さんの自殺についてな。そのことについて話したいから、二人とも今から外に出られへんか?」  ぼくは涼ちゃんを見つめた。叔母さんたちが外出を許すか、涼ちゃんの反応を見て確かめようと思った。  視線に気づいた涼ちゃんは、 「たぶん、大丈夫だと思う。母さんに訊いてみるよ」と言った。 「だそうです、先輩」 「おっけー、わかった。集まる場所はメールで送っとくわ。駄目そうなら、また連絡くれ」 「わかりました」  先輩との通話が終わり、さっそく涼ちゃんは、お風呂に入っている叔母さんに訊きにいった。  テレビを見てみると、あのシンガーソングライターの出番は終わっていた。今歌っているのは、八十年代から活躍している大物ミュージシャンだった。  名曲を聴いていると、涼ちゃんが戻ってきた。 「大丈夫だってさ。補導される時間になる前に帰ってこいってさ」 「よし、じゃあいこうか」 「それと、なにかあったら涼子を助けてあげてね、だってよ」  ぼくはふふっと笑った。「命にかえても」
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