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ぼくはあらためて言った。「どうしたの?」
「いや、解ったんだ」
「ん? なにが?」
と訊いたと同時、叔母さんが扉を開け出ていく音が聞こえた。
「どうして二十七の誕生に自殺をしたのか、解ったよ」
「ほ、本当に?」
「うん」と涼ちゃんは頷いた。「二十七で死ぬのが理想だったんだ。二十六でもなく、二十八でもなく」
「どうして?」
「単純な話だよ。昔の有名なミュージシャンの多くが、二十七で命を落としているんだ。春馬さんや秋里さんが好きと言ってた、ジミー・ヘンドリックスなんかがそうだ。思い出したよ。
二十七クラブっていう言葉まで存在するくらいだ。二十七歳というのは、ああいう人たちのある種、憧れでもあるんだよ。もし余命まじかで数年後には死んでしまうとすれば、二十七歳で命を落とそうと考えてもおかしくない。秋里さんは、音楽に心酔していたしな。
だから、秋里さんが残した物語にも、二十七で死のうって書いてあったんだよ」
「ああ、なるほど……。どうせなら、自分も憧れの中で死にたいと」
「そういうことだろうな。そうして二十七の誕生日になり、死を選んだ。
どうだ? 間違ってるかな……」
ぼくは首を振った。「そんなことはないと思うよ。それで説明できるもの」
秋里さんの気持ちは、正直ぼくにもわかった。余命わずかな儚い命なら、死に際は自分で選びたい。それは、家族に見守られながら眠りたいと願うのと同じようなものだ。
「これを先輩にも教えてあげようよ」とぼくは言った。
「そうだな、電話してみるか。キョウは電話番号知ってんのか?」
「うん、知ってる。かけてみるよ」
スマホを取り出し、先輩に電話をかけた。二、三度コールしたあと、先輩は応答した。外にいるのか、かすかに自動車の音が聞こえる。
「もしもし、どしたキョウ。偉大なる先輩の声を聞きたくなったんか? しょうがねえな~」
「違います」とぼくはぴしゃりと言った。「違います」
「わかってるから二回も言うな!」先輩は嘆息をついた。「それでなんや」
「それがですね、秋里さんがどうして二十七で命を落としたのか、涼ちゃんが答えを見つけたんです」
「ほんまか」
「ええ。じゃあ涼ちゃんから説明してもらいます」
ぼくは通話をスピーカーモードにした。
涼ちゃんはぼくの方を見て頷くと、説明を始めた。
話を聞き終えた先輩は、納得して、
「なるほどなあ」と呟くように言った。「それで間違いないかもな」
「そうですよね」とぼくは言った。「それを聞いたとき、ぼくも納得しましたもの」
「涼子、でかしたな」
「ありがとうございます」と涼ちゃんはぺこりと頭を下げた。
「実はさ、俺も解ったことがあんねん」
「先輩もですか」とぼくは言った。
「そう、秋里さんの自殺についてな。そのことについて話したいから、二人とも今から外に出られへんか?」
ぼくは涼ちゃんを見つめた。叔母さんたちが外出を許すか、涼ちゃんの反応を見て確かめようと思った。
視線に気づいた涼ちゃんは、
「たぶん、大丈夫だと思う。母さんに訊いてみるよ」と言った。
「だそうです、先輩」
「おっけー、わかった。集まる場所はメールで送っとくわ。駄目そうなら、また連絡くれ」
「わかりました」
先輩との通話が終わり、さっそく涼ちゃんは、お風呂に入っている叔母さんに訊きにいった。
テレビを見てみると、あのシンガーソングライターの出番は終わっていた。今歌っているのは、八十年代から活躍している大物ミュージシャンだった。
名曲を聴いていると、涼ちゃんが戻ってきた。
「大丈夫だってさ。補導される時間になる前に帰ってこいってさ」
「よし、じゃあいこうか」
「それと、なにかあったら涼子を助けてあげてね、だってよ」
ぼくはふふっと笑った。「命にかえても」
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