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この町一番の料理店といえば、昔から大和田だった。大和田の鰻といえば、この町の一番のご馳走だ。幸江さんは大和田に電話をかけ、鰻重の特上を二丁、と威勢のいい声で告げた。ついでにビールを二本持って来て、と付け加えるのも忘れなかった。
私たちは本当に何十年ぶりかでお互いにビールを注ぎ、乾杯をした。
隆さんがその横で寝ていた。否、死んでいるのだった。
「あ、兄ちゃんも」と、二杯目に入る頃幸江さんが言った。
「そうね。隆さんも。飲まない人だったけど、今日くらいは」
私たちはコップをもう一つ用意し、ビールを注いだ。隆さんの分。
「兄ちゃん乾杯」
「こういう時はね、献杯っていうのよ」
「そうかね。ごめんよ世間知らずだもんで」
私たちは笑った。ひとしきり笑った。
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