自縄自縛

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 朝起きて、私はまだ布団の中にいた。  夢を見ていた。でも思い出せない。何の夢だったか。  カーテンの隙間から光が差し込んでいる。外は晴れているのだろう。  なんとなくうとうとしていると、枕もとのスマホが何か音を出してブルッと震えた。買い替えたばかりで使い方がよくわからない。画面が点いている。何かメッセージが来たらしい。  手を伸ばしてクリックしてみる。  「真弓さんでしょうか?」とそのメッセージの主は書いていた。  そうだ。私は真弓だ。  「幸江です」と文字が続く。  幸江。はて?  「佐藤隆の妹の」  おお。  懐かしい。  佐藤隆。  元旦那。  私の元旦那。  「隆が亡くなりました」幸江さんはそう書いていた。  亡くなったんだ。  隆さん。  私はスマホから手を放して、もう一度掛け布団の中に入った。  寒かった。もう三月だというのに。  エアコンをつけなきゃ、と思った。でもエアコンのリモコンまでが遠い。  隆さんが亡くなった。  隆さん。  何年ぶりだろう。その名前を聞くのは。  私は今六十三。離婚したのは三十六の時だから、かれこれ、ええと、二十七年ぶりか。  私は天井を眺めながら指折り年数を計算し、そしてそれから隆さんのことを思った。  思い出したのは居間にいる隆さんだった。日当たりのいい和室。何かジャンパーのようなものを着込んで、座布団の上に胡坐をかいて座っている。丸い肩。猫背。髪が薄くなっている。下膨れの白い顔。  そして隆さんは微笑んでいる。  ああよかった、と思った。  久しぶりに思い出した隆さんの顔が、微笑んでいたから。
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