ミュージックフェスティバル

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ミュージックフェスティバル

そうして、私は吹奏楽部に入って、フルートという楽器を吹くことになった。 あれから、半年が経った。 初めこそは、楽譜も読めない、楽器も吹けない、部活に知っている人もいないで、大変だったけど半年も経てば慣れた。 技術的にはまだまだなんだけど。 今日は、有名なトランペット奏者の冴島さんと言う方とコラボできるミュージックフェスティバルに参加する。 私達の高校の他にもいくつかの高校が参加していた。 午後からはそれぞれの高校が、演奏を披露して、最後に参加校全員での合同合奏と冴島さんとのコラボ演奏を予定している。 午前は、そのコラボ演奏のリハーサルが1時間設けられていた。 ステージに総勢200人越えの高校生が楽器と一緒に並ぶと、それはそれは凄まじいほどの密度となる。 私は、他の曲の暗譜(楽譜を覚えること)で手一杯でコラボ曲を練習していなかった。 だから、こんなに近いと吹けないのがバレちゃう、と焦っていた。 その上、私の隣にいたのは男子だった。 フルートで男子って珍しいのに… 男の人と密着するのは気が引ける。 そうやってヒヤヒヤしながらリハーサルをしたのだけれど、なんと隣の男の人も私と同じで全く吹けていなかった。 曲を吹き終わると、5分間ほど交流の時間が設けられた。 私は勇気を出して声をかけてみることにした。 「あの、フルートいつから始めたんですか?」 「高校に入ってからです。 すいません、全然吹けてなかったですよね」 「いえ、私も高校に入ってから始めて… もしかして、初見ですか?」 「ええ、実は今日、初めて吹きました。」 笑った顔に何故だかドキッとした。 ぼっと顔が熱くなる。 それからは、恥ずかしくなって何も話せなかった。 私はただ、楽譜を読むふりをして時間が過ぎるのを待った。 彼が着ていた制服は隣の市にある学校のものだった。 午後になりいろんな学校の演奏を鑑賞した。そして、彼の学校の番が近づいてきた時… うちの部の一団がいきなり席を立ち始めた。 出番が回ってきてしまったようだ。 準備に行くために、彼の学校の演奏は聴けなかった。 せっかく今日の参加校の中で一番楽しみにしていた『ムーンライト・セレナーデ』を演奏する学校だったのに…。 最後にあった全員合奏で、話す機会があったはずなのに、私は、声をかけることができなかった。 もちろん、向こうから話しかけてくることもなかった。
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