海の底で待つモノ

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 ザン……ザザン……  優しく鼓膜を揺らす海の声を、由香子は沈鬱な気持ちで聞いていた。  濡れぬように浜辺を歩きながら、どんよりと曇った空を見上げる。今にも泣きだしそうな空がそのまま由香子の心を映し出しているようだった。  ふわりと海風に晒されて翻るのは、青いシフォンワンピース。小花をちらした上品なデザインで、裾にさり気なくレースをあしらったお気に入り。今日のデートのために張り切ってタンスから出したのに無駄になってしまった。  そこまで考えて由香子は鼻の奥がツンと痛くなってくる。  思い起こされるのは、先ほど届いたメールだ。 『寝坊した。待たせるの悪いし、また今度にしよ(-ω-)』  これが駅前に1時間待たした彼女へ送られて来たメールである。  当然のごとく由香子は激怒した。  まずは謝罪だろうがとスマホの画面を叩き割りたくなったし、”待たせるの悪い”って言いつつ来るのが面倒なんじゃねーか、ふざけんな。本音が透けて見えるような建前を、あたかもこちらのための様に振りかざす精神が気に食わない。そのむかつくω(くちびる)引きちぎってやろうかと拳を震わせた。  いっその事別れようかとも思ったが、もう付き合って3年になるし由香子自身も27歳。デートが駄目になったくらいで別れ話を切り出せるような気力はない。「あーはいはい。またかよ」と諦めてしまう方が存外楽なのだ。  何より今日が自分の誕生日を彼が忘れている事が、由香子を大きく落胆させていた。 「はあ」  大きな溜息をつく。そのまま帰る気にもなれなくて、たまたま近くにあった海に足を伸ばして、自分は一体何をしているのだろう。 「汚い海だなあ」  見渡す限り砂浜の上には流れ着いたゴミが散乱していた。まるでゴミ畑だと、由香子は足元のペットボトルをコツンと転がした。 「おねーさん、何してんの?」  不意に後ろから声がかかって心臓が跳ねた。ぼんやりしていたが、今の自分の挙動に不審な所はなかったか。  恐る恐る振り返ってみると小学生くらいの男の子が1人、ゴミ袋を片手に小首を傾げて見上げていた。
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