6514人が本棚に入れています
本棚を移動
/173ページ
幸せになろう
神聖な教会の控え室、
華やかなウェディングドレスに身を包んだ、美しい花嫁が話しかける。
「凛太郎さんは、まだ?」
「うん、ギリギリかも。
本当は昨日だったのに、まだなの。間に合うといいんだけど…。」
「天候だけは、どうしようもない。
ニューヨークからだもん、しょうがないよ。」
ため息を吐く私に、麻里奈が微笑んだ。
「ほら、そんな顔しないで?
優香がいてくれれば、十分なんだから。
心配し過ぎたら、赤ちゃんに良くないよ?」
「凛太郎に会うのも久しぶりだから、早く会いたい…。」
「だよね。里帰り出産だもんね。」
無事に結婚した凛太郎と私は、その2年後、ニューヨークに旅立った。
ところが、直後に妊娠が判明して、初めての出産ということもあり、二人で相談して日本での里帰り出産を選んだ。
この時ばかりは、優香を溺愛する凛太郎も、日本での出産に賛成した。
私には遠いニューヨークも、凛太郎にとってはその距離も大して気にならないらしく、意外と頻繁に帰国していた。
渡米前の2年の間に、アールデザイン事務所は優秀なデザイナーを育成し、凛太郎が不在でも対処できるだけの準備を整えていた。
そのおかげで、ニューヨークでは心おきなくアートに触れることが出来た。
凛太郎を指名するクライアントに対しては、藤川が窓口となり、オンラインで仕事をこなしている。
最近では、あちらで仕事の依頼を受けることも増えてきて、順調にあの街に馴染んできているように思う。
後しばらくは、ニューヨークでの生活を続けるつもりだろう。
あちらでの仕事の依頼もあって、ここ最近は凛太郎の帰国が遠退き、少し寂しいのを我慢している。
今の優香には、凛太郎との再会が待ち遠しくて堪らない。
「麻里奈、大丈夫だよ。
ちょっとマタニティブルーですから…。
今日は、最高に素敵な花嫁さんを見られて、本当に幸せな気分だよ、胎教にも良いはずだからね〜。」
そう言って私は、ふっくらと膨らんだお腹を摩った。
麻里奈も一緒にお腹を撫でると、ポコポコと返事があって、二人で笑い合った。
最初のコメントを投稿しよう!