【番外編】母になる②

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【番外編】母になる②

葉月さんに付き添ってもらって、病院まで辿り着いた。 今のところ、気分は落ち着いている。 そして、なぜか痛みまで落ち着いた。 凛太郎が向かってくれていると知って、心に余裕が出来たのは間違いない、母も間もなく到着すると連絡があった。 主治医の診察を受ける為に、待合室で待っている間、私は葉月さんが出産した時の体験談を聞いていた。 結局、ご主人は何の役にも立たなかったとか。 葉月さんのご主人、つまり私達夫婦の義兄の宮永さんは、いつも冷静沈着な人だというイメージ。 分娩室に入る前、痛みに耐える葉月さんの力になろうと、彼なりに努力したらしいのだけど、痛みを逃す為に腰を摩っても、見当違いの場所ばかり。呑気な世間話も、葉月さんを苛立たせたらしくて…。 諦めておとなしく動画を見ることにした義兄は、動物チャンネルを視聴することにしたそうだ。インパラの赤ちゃんの出産シーンが映し出され、生命の誕生とその神秘に夫婦で感動していたという。 ところが、その感動も束の間、直後にインパラの赤ちゃんがライオンに襲われ、食べられてしまった…。 つまり、弱肉強食、大自然の厳しさと自然の摂理のようなものが、画面に映し出されたわけで。 今から分娩台に上がる妊婦には、ちょっとヘビーな内容だったよね、そりゃ。 その直後、葉月さんの子宮口は全開になり、いよいよ分娩室へ。 「あなたって、本当に…。」 葉月さんは残念な義兄を一瞥して、一人で分娩室へ…。 血に弱い義兄を思って、立ち会い出産を希望しなかった葉月さん。 結局、出産は一人だと…。 いや〜お姉さん!為になるというより…、なんだか私、心細くなってしまいました…。 「坂崎さん、坂崎優香さん、どうぞお入りください。」 「は、はい。」 名前を呼ばれ、診察室に入った。 ドキドキしながら診察を受けて、医師の説明を受けた。 「ハイ坂崎さん、いよいよですね。今ね、子宮口が4センチ開いてますね。それと、少量ずつだけど破水してますね。」 「ええっ、そうなんですか?」 知らない間に破水してたのか〜、尿漏れかと思ってたよ。 結局、感染症を防ぐ為に点滴をして、陣痛を促す薬を使うことに…。 医師からは、 「坂崎さんは子宮口が柔らかいから、出産まで早いかもね〜。」 「は、はぁ。」 と軽〜く言われて、早いってどれぐらいと思ったけど、初めての経験だからどれぐらいかかるのか見当もつかない。
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