▼プロローグ

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▼プロローグ

私、立石 渚沙(たていし なぎさ)は幽霊だの、悪魔だの、オカルトじみた存在、現象が大嫌いだ。 決して怖いとかではなく、同族嫌悪である。 私は幼い頃から、触れた物体や空気に残された記憶を見ることができた。 それを世間ではサイコメトリーというらしい。 そんな異質な私を家族や友人は気味悪がった。だからかもしれない、私を孤独にした超常現象という類への反発心を抱いたのは。 「電磁気学と耳にしただけで、苦手意識を持つ必要はありません。目に見えないものでも、必ず現象には科学的根拠が存在します」 大学の講義室で、私は黒板の前をうろうろと歩きながら生徒たちに説く。 物理学教師である私は、今日から大学二年生の電磁気学を教えることになっているのだ。 「目に見えないものって、幽霊もですか?」 男子生徒のからかうような声にぴくりと眉を震わせた私は、静かに足を止める。 生徒たちの座席を見渡せば、手を挙げてにやにやしている男子生徒がひとり。 「先生は幽霊を信じてますか?」 ――くだらない質問だ。 周りの友人たちから『あの能面物理学教師の立石にあんな質問するなんてな』『あいつ、勇者だ!』と騒がれている彼は、なぜか優越感に浸ったような顔をする。 新しいクラスで、優位に立ちたいから必死なんだろう。 悪目立ちする人間は、自然と周囲からリーダー視される。 教師に強気な態度をとって、クラスカーストの上位に食い込みたいといったところか。 私は白衣の裾を翻して教卓の前に立つと長い黒髪をさっと手で払い、眼鏡のブリッジを指で押し上げた。 「幽霊? はっ、くだらないわね」 吐き捨てるように言えば、講義室の空気が凍りつく。 冷笑が口からこぼれたけれど、表情筋はまったくといっていいほど動かない。 自分でも思う。私は生徒に熱心に愛情を注いだりとか、同僚と友好な関係を築くとか、向いていない。 教師に不向きだとわかっていても物理学教師を目指したのには、理由がある。 無論、心霊・超常現象を真っ向から否定するためだ。 「いいですか? 幽霊だの超常現象だの、そんなものは全部人間の妄想、脳の誤認識です。私は……」 バンッと教卓に両手をつくと、高らかに宣言する。 「幽霊なんて非科学的なものは信じないし、反吐が出るほど嫌悪しています!」
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