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「やっぱり、丸くなったわね」
「は?」
「出会ったときに比べたら、まるで別人」
「……もう休憩時間終わってるし、店長が店員サボらせてていいの?」
「それはマズイわね」
海がドアを開ける。そして、空の肩を軽く叩いた。
「……結構、いい男に育ってるわよ?」
「うるさいっ」
空は海を睨みつけ、足早に店へ出て行く。その後ろ姿を眺めながら、海は肩を揺らしながら笑った。
「ガラにもなく、照れてやんの!」
初めて空と出会った時を思い出す。虚ろな瞳で、何もかもを諦めてしまったような顔をしていた。人の温もりに飢え、寒さに凍えていた。
そんな空が気になって仕方がなくて、そして何より放っておけなくて、ここへ連れてきた。
「男ばかりでもそれなりに温かかったと思うけど……やっぱり可愛い女の子は必要だったわね」
クスッと微笑む。
ここに連れてくれば、少しずつ変われる、そういった確信はあった。しかし、ここまで変わってくれるとは嬉しい誤算だ。
誰かに誰かを支えてほしい、そんな風に言われるまでになるなんて。
『真結をよろしく頼む。でも……泣かせたら承知しない』
幸成から真結を託された空は、何を思うのだろう。そして、真結をどう思っているのだろう。
「それはまぁ……追々ってところでしょうね」
小さく呟き、海はもう一度ドアを開けて店を見渡す。いつもより人が多くひしめいている店内には活気があった。
陸や大輝は慣れた様子で接客をこなしている。空は不愛想ながらも、しきりに女性客に声をかけられている。そして真結は、一生懸命客に鉱石の説明をしながら商品を勧めていた。どうやらオーダーメイドの注文のようだ。別室では、久我が客の要望どおりの商品を製作しているだろう。
皆の力が繋がって、重なり合って、ここは成り立っている。
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