プロローグ

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 雨が降っていた。  透明のビニール傘を差した少年が、虚ろな表情で空を見上げている。  これ以上なく整った容姿に目を奪われたが、それよりも、少年の纏うオーラのようなものに圧倒された。  何物も寄せ付けない、鋭利な刃物。それでいて、酷く脆くて、寂しげで──。  ふと目が合った瞬間、少年の全身の毛が逆立ったように見えた。  他人を恐れ、必要以上に警戒する彼を、そのまま放ってはおけなかった。 『助けて』  油断すると聞き逃してしまいそうなほど、微かな声が聞こえる。少年が発したものではない。もっと小さくて、幼い声。  その声に引き寄せられるように、言葉をかけていた。 「君、鉱石は好き? 君が首にかけている鉱石はコスモオーラよね。その子が助けを求めてる」  少年は不審者を見るような目つきを寄越す。それも当然だ。通りすがりの見知らぬ女が、おかしなことを言っているのだから。  それでも、小さな声を聞いた瞬間に確信したのだ。  これは「縁」だ。  彼が身につけているコスモオーラがもたらした、結ばれるべき大切な「縁」。  少年の瞳は微かな光を宿し、こちらを見つめる。  この「縁」はきっと、これまで少年が見ていた世界を変え、新しい「縁」を結ぶ。 「ねぇ君、うちの店で働いてみない?」  そんな怪しげな誘い文句にもかかわらず、こちらをじっと見つめていた少年の口角が僅かに上がった。 「そうしたいなら、すれば?」  生意気な減らず口。こちらの口角も、否応なくクイと上がる。  これは予感ではなく、予知。  この出会いはきっと、互いの世界において、かえがえのないものになる──。
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