第1章 喪に服す期間

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「あなたには……アルフォードと友人のような関係になってくれれば理想だわ。今までも何人か雇ってみたけれど、その……いい人間関係には至らなかったの。気長にお願いできるとありがたいの」 「気長に……と、仰るのに、期限が半年なのはなぜです?」 ふと感じた疑問を口にしただけだ。 途端にマダム・エリザの顔が強張った。 「とくに……。その……、期限を決める方が集中して働いていただけるでしょう?関係次第では延長もあり得ると思ってほしいわ」 なんだか歯切れの悪い言い方だったが、一応に納得して頷いた。 「用のない時は自由にしていてくれて構わないけれど、息子を十五分以上放置しないで。それだけは約束して頂戴」 少し緊張を帯びた声音でピンと来た。 「そういう間違いが起こりえる状態だと?」 言葉をぼかして訊ねれば、マダム・エリザの顔が悲嘆に歪んだ。 「ええ。何度か。お願いするわ」 何度か。 その言葉の意味を正確に捉える。 彼女の息子は何度か自殺を試みているということだ。そして、それはこの仕事をする上ではよくあることだった。 「尽力します」 泰然と述べるカラにマダム・エリザは押し黙った。 口許に添えた手が小刻みに震え出す。 「猶予は六ヶ月なの」 押し殺した彼女の声音に、片眉を上げる。 「六ヶ月後にオレゴン州へ行くと……」 その言葉ですべて理解する。 『安楽死』もしくは『尊厳死』を認めている自治州に、それを求めて旅立つと言っているのだ。マダム・エリザはカラの腕をすがるように掴んだ。 その目が涙に揺れる。 「お願い……息子を助けて」 「……」 沈黙で応えるしかなかった。 母親のすがる手を振り払える人なのだ。 赤の他人のカラに叶いそうな願いではないと、端からわかっていた。
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