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ついた先は本低だ。カラは迷わず本低のリビングへ入る。
今日は少し肌寒い天候だった為、暖炉に薪がくべられた。とは言え、暑過ぎないよう灯が燻る程度に調節してある。随分前から既に準備をしておいたのだ。
「Mr.アルフォード。お茶を入れて下さいますか?」
うっかり敬語に戻ってしまった。
元来、タメ口というものにカラは慣れないのだから仕方がなかった。
「はっ。霊魂に茶を淹れることが出来る筈がないだろう?」
アルフォードは片眉を上げる。
たいした嫌味だな?とその目に険が増す。
「ええ。ですが、聖職者の私はあなたとふれあえるのです。あなたの声も、姿も確とここに在ります」
カラは胸に手を添え微笑んだ。
嫌味や皮肉は無い。そんな穏やかな目をアルフォードに向けていた。
「マダム・エリザに伺いました。あなたはお茶を入れるのが巧かったと。私に教えて下さいませ。神の御許にいる霊魂は神の僕。人を導く者であらねば」
それでも彼は黙したまま、応じようとはしない。
カラは小さく嘆息し、彼の膝元で膝を着く。
そして、祈るように頭を垂れた。
「Mr.アルフォード。どうか、あなたの生きた証を私に一つ伝授してくださいませ」
カラは顔を上げて、彼の目を見上げた。
彼は無言を貫いてはいるが、カラを無視してはいなかった。その目は確とカラを映している。
「私は敵ではありません。けれど、味方でもないでしょう。私の聖名はカラ。空っぽのカラです。あなたにとって、何ほどでも無い者です。そんなに恐れを抱く必要は無い筈です」
自嘲するカラの言葉に、アルフォードは僅かに目を瞠った。
そしてようやく重い口を開いたのだ。
「先ずは、湯を沸かせ。沸騰したらティーポットを温めてから茶葉を入れろ」
横柄な言葉ではあったけれど、アルフォードはカラの願いを聞き届けてくれた。
「Yessir」
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