1幕

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1幕

美里は授業中上の空だった。 小さい頃から「美里は後先を考えない」と言われてきた。なかなか、的を得ているな、と思い始めてきた。なるほど。 ちら、と周りを見る。居眠りをする者、談笑する者たち。そのそれぞれに物語があったはずなのに、薄っぺらく感じてしまう。これもわたしの悪いところ。 次は二組との合同授業。体育だ。ゴルフの真似事のようなもので、旗がグラウンドのそこらかしこに置いてあり、それを球が触れたら自分で紙に書いて提出する、というようなもの。先生はグラウンドを見回りフリをしているが、ほぼみんな自由だ。 早く何かしたい。声を出したい。誰か演劇部に入ってくれませんかー!って、今ここで叫んでみるか? 綺麗な子と目があった。とりあえず叫ぶのはやめておいたが、その子に何か惹かれるものがあった。絶対、舞台映えする。 「あなた、二組の子よね。演劇部、入らない?」 いきなりの勧誘だった。案の定、その子はポカンとした顔で美里を見つめていた。 「あ、名前言わなきゃだね。わたし、浅倉美里。よろしくね」 握手を求めると、その子は戸惑いながらも握手に応じてくれた。 「名前、聞いてもいい?」 「……あ」 その一文字を言ったきり、俯いてしまった。 「えっと?ちょっと人見知りなのかな?あのね、あなたに話しかけたのは、演劇部に入って欲しいからなの」 「えん、げき?」 「そう、演劇。あなた舞台映えすると思うし。なんだったら台詞のない役でもいいし。徐々に台詞増やしていくとかさ。あんま、興味ない?」 「………わたしは」 「ちょっと!!なに葉山さんいじめてるのよ!」 「わ!誰あんた」 いきなりの登場に、つい口が悪くなってしまった。 「葉山さんのクラスメイトの霧咲凛ですけど。葉山さん困ってるじゃん。いるよねー、葉山さんみたいな大人しい子狙って自分の鬱憤晴らすやつ!」 …いるよね、こういう勘違いして自分が正しいと思い込むやつ。とりあえず、霧咲さんのおかげでこの子の名前がわかった。 「ち、違うもん!わたしはただ、葉山さんが演劇に向いてそうだなって。だから声かけてたんだけど…やっぱり迷惑だったかな?」 「あ、迷惑、なんかじゃ」 「葉山さんが演劇?こんなか弱い子には無理だよ。しかも勧誘するってことは、演劇部にはアンタがいるってことでしょ?そんなとこに葉山さんを行かせられない」 「決めつけるのって、本人にも霧咲さんにもよくないよ。可能性を狭めてる。葉山さん、どうかな?」 わたしと霧咲さんを見比べては、困惑している葉山さん。 「あ、わたし、あの」 「葉山さん、こんな危ない人についていっちゃだめよ」 「あなたは母親ですか!葉山さんに聞いてるの!教えて?」 大きい瞳が揺れる。 「やっ、やってみたい、でしゅ!」 「……」 でしゅ?か、 「かわいい〜〜〜!!!!!」 わたしの言葉を奪ったのは、霧咲さんだった。 「あ、…ゴホン。まあ、葉山さ…芽衣がそう言うなら、認めるしかないみたいね。でも、それならわたしも入る。芽衣を困らせるだけの未来がわたしには見えてるもん」 霧咲さんは、赤面しながらそうまくしたてた。 「なんか予定と違うけど…部員ゲットだぜー!」 「部員って何人いるのよ」 「あー、わたしを含めて4人だね」 「4人?って、演劇をやるには少ないのかしら?」 「まあ、できないことはないけど。その人数だと裏方も自分たちでやらないといけないから大変だろうね」 「へえ…。芽衣には負担が大きすぎないかしら」 霧咲さんは葉山さんを見ると、葉山さんはパッと俯いてしまった。 「うーん。裏方に専念、っていうのもできると思うけど、わたしは葉山さんは演者向きだと思うんだよねえ」 「…確かに、さっきの声はかわい…澄んでいたわね」 「あ、ありがとう、ございます」 葉山さんはジャージの裾を口の前に持っていって、ご丁寧にお辞儀つきで言った。 「かわ………。まあ、わたしが芽衣を支えるから。演者ってやつ、とりあえずやってみる?」 霧咲さんは葉山さんを覗き込むと、葉山さんはこくりと頷いた。霧咲さんは声にならない声を出してなぜか頭を抱えた。 とりあえず、部員2人ゲット。多分、演劇未経験。これを先輩たちがどう受け取るか。祥子先輩は喜んでくれるはず。アンナ先輩も、なんだかんだ大丈夫そう。問題はキョーカ先輩だけど、演劇部を盛り返すためには部員の確保は必須。わたしも演劇未経験だし、大丈夫なはず。まあ、嫌われてるみたいだけど。 とにかく、頑張らないと。まだまだあの人には遠い。 「じゅあ早速今日の放課後、部室に来てくれるかな。とりあえず先輩たちに紹介しないと」 部室の場所を簡単に伝えて、その場は切り上げた。
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