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「まあ、いいんじゃない」
キョーカ先輩から発せられた言葉は、思っていた以上にあっけらかんとしていた。
「あたしもいいと思うぞ。未経験とはいえ部員は必要だしな」
アンナ先輩も椅子の背もたれに寄りかかりながら言った。祥子先輩はにこにこしながら見守っていた。
「あ、えっと。葉山芽衣、です。よろしくお願いします…」
今まで私たちの会話をもじもじしながら聞いていた葉山さんが、ぺこりとお辞儀した。
「あたしは芽衣の友達の霧咲凛です。よろしくお願い致します」
先輩たちは私たちを一瞥すると、ふう、とため息をついた。
「入部は認める。ただし、仮入部よ」
「仮入部?」
「あんたたち一年だけで、一ヶ月で約10分の劇を完成せなさい。自分で台本を書いてもいいし、即興劇でもいい。ただし、それが納得のいく出来でなければこの話はなし」
なるほど。見極める、ってことね。部員の確保より、演技力の向上を図りたい、っていうことでいいのかな。それなら、練習ももっと真面目にやってもいいと思うけど。
「わかりました。二人も、それでいい?」
「芽衣がいいなら」
「頑張ります…!」
そして、その日から三人での話し合いが頻繁に行われた。たまに祥子先輩がやってきて、助言をくれたりもした。
自分たちで台本を書くという選択肢と、即興劇。即興劇は、演劇経験がなければ難しすぎる。相手の台詞に、即座にリズムよく言葉を返さなければならない。それも、即興劇とはいえ、役に入りながら。
台本を書くしかない。しかし、どんなストーリーで、配役で。この三人で、どんな物語ができるのだろう。
とにかくやるしかない。
二人の推薦で、主役はわたしがやることになった。とはいえ、今回は三人ともが主役、という主軸は忘れず、その方向で話は進んでいった。
「台本、できたよ」
小説を読むのが好きだと言う葉山さんが台本作りを名乗り出てくれ、数日後、台本を見せてくれた。
「ありがとう!こんな短期間で大変だったよね?」
「あ、ううん、楽しかったから…大丈夫だよ…」
「さっそく読み合わせも兼ねて声に出してみんなで読んでみよっか」
物語は、高校の卒業式後。卒業を惜しんだ友達同士三人で旧校舎の屋上へ向かう。その道中、思い出を語り合う三人。ずっと一緒にいようと誓い合い、最後は屋上に辿り着き、低い点数のテストをばらばらに破いて三人一緒に先生に怒られるが、いい思い出ができた、と笑い合い、終演。
「うん、いいね。女三人だからこそできる内容だね」
軽く声に出して三人で読んだけど、とても初めて台本を書いたとは思えない。
「そうね。芽衣、すごいじゃない」
「えへへ、ありがとう」
「でも、芽衣のセリフが二人よりも少なくない?」
「あ…自分の役だと思ったら、つい…」
「うーん、そっか。まあ、当て書きっぽいし、葉山さんの役にはハマってるからいいのかなあ。祥子先輩が来たら聞いてみよっか」
勉強はしているつもりだけど、わたしも所詮は演劇未経験。わからないことは多い。結局、先輩に頼ってしまうことが歯がゆい。
「ご、ごめんね…」
「あ、いや、責めてるわけじゃないから大丈夫なんだけどね?」
霧咲さんの視線が痛い。完全に姉気取りだな。
葉山さんの個性だと思うけど、同じ舞台に立つ演者の私たちにも遠慮しちゃうのはいい傾向じゃないかも。稽古する前に、三人でコミュニケーションを取ることが大事かな…。
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