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「セリフが少ないのはいいんちゃうかな…。今回はみんな演劇未経験やけど、あまり慣れてない人にセリフが少ない役に当てはめる例は少なくないし。でも今回は三人が主役みたいなもんらしいから難しいとこでもあるよなあ」
祥子先輩に相談したところ、祥子先輩はうーん、と頭をひねった。
台本の全編は祥子先輩も見る側だから見せていないけど、相談する中で軽い話の流れは伝えてある。
「そうですよね」
わたしがそう言うと、祥子先輩は葉山さんをちら、と見た。すると、葉山さんは申し訳なさそうに下を向いてしまった。
「美里ちゃんに誘われた言うてたけど、芽衣ちゃんはほんまは演劇やりたくなかった、とかではないんよね?」
祥子先輩が優しく葉山さんを覗き込むと、葉山さんはぶんぶん、と頭を横に振った。
「ち、ちがいます。ただ、自分なんかが…って」
そう言ったきり、葉山さんは俯いたまま黙ってしまった。
「自信がないってことなんやね。私も自信なんかないけど舞台の上に立ってるから大丈夫…なんて軽々しく言えんけど、だからこそ、舞台の上でだけでも自信持ってもええんちゃうかな」
「舞台の上、だけでも…」
さすが経験者。言葉の重みが違う。
「って、ごめんな。わたしなんかが口出してもうて」
「いえ、ありがとうございます、祥子先輩」
祥子先輩は私たちに微笑んで、奥にいる先輩たちの輪の中に入っていった。
「舞台の上だけでも、自信をもつ」
呪文のように、祥子先輩の言葉を繰り返す葉山さん。
「さすがは先輩ね。芽衣の顔が変わったわ」
霧咲さんは満足そうに笑った。
「霧咲さんも、わたしも…舞台の上だけでも、自信もとう。わたしたちなら大丈夫」
「私は別にいつも自信満々よ!あと…凛でいいわ」
「よかったら、わたしのことも美里って呼んで!」
「あ、私も、葉山さんじゃなくて、芽衣って…」
「私は既に芽衣って呼んでるわよ」
「じゃあ、みんな下の名前で呼び合おうか。役も、下の名前で呼び合ってるし」
「そうね。役に近付けるのはいいことだし、私たちの距離が近付くのもいいことだわ」
いい感じのチームワークになってきた。でも、舞台に向けての進捗はよしとはできないかも。この時点で台本を軽く読み合わせただけ。あと二週間弱か。10分とはいえ、1か月で未経験三人が劇を仕上げるのはやはり厳しい。だからこそ、それを乗り越えて、先輩たちに少しでも認めてもらわなければ。
「立ち稽古をつけるのは終盤の仕上げのときにしよう。あまり大きな動きもないし、動きはアドリブを入れながらでいいと思う。それよりセリフを頭に叩き込もう」
そう言って、私が台本を開くと、二人も台本を開いた。
「今はとにかく合わせよう。セリフを覚えるのは各自で」
「ええ。このままだと、ちょっとやばいかもだからね」
凛も危機感を覚えていたのか。それでも口にしなかったのは、芽衣を焦らせたくなかったからかも。
「じゃあ、行くよ」
軽く読み合わせた後、私はうん、と頷いた。
「だんだん息があってきたかな。セリフの間もいい感じ。あとは、声の大きさかな。どこでやるのか聞かされてないけど…体育館でやるとしたら、奥まで届くようにしないと」
「ごめんなさい…」
「あ、いや、別に怒ってるわけじゃないから謝らないで。わたしだってまだまだだし」
芽衣は、まだ私たちに心を開いてないのかな。演劇を本気で好きになってくれたら、何か変わるのかな。どうしたらいいのだろう。
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