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祥子先輩の言葉に、目の色を変えた気がしたけど。気のせいだったのかな。舞台に立ってみなければわからないこともあるか。わたしもだけどね。
「よし、じゃあこの調子でどんどん…」
「それで満足するつもり?」
「え……」
頭上から声がした。見上げると、キョーカ先輩が私たちを見下ろしていた。
「さっきから見ていたけど。その子。メイ、だっけ?性格を否定するわけではないけど、舞台で人見知りしてたら見てる人も気になっちゃうわよ」
これは。助言?注意?
「す、すみませ」
「謝るのはなしよ。謝るのは、舞台のあと反省会でもするのね。今はがむしゃらにやってみなさい。そしたら、お客さんに何か届くものはあるはずよ」
「がむしゃらに…」
また、芽衣の目の色が変わった。もしかしたら。舞台に上に立つ自分を想像しているのかも。がむしゃらに、自信を持って舞台の上に立つ自分を。
「あの、アンナ先輩も何か助言ください!」
芽衣は。舞台の上の自分に憧れているのかもしれない。でも、実際の自分には自信がない。それを、鼓舞できたら。
「え、あたし?」
「…別に私は助言したつもりはないわ」
そう言って、キョーカ先輩は奥に行ってしまった。
「ま、まあ、そうだなあ。最初からうまくやれるわけはないんだし、うまくやろう、じゃなくてまずは楽しんでみよう、って感じじゃね?楽しむ準備っていうか」
「たのしむじゅんび」
オウムのように言葉を繰り返す芽衣。確信した。この子はやっぱり演劇向きだ。
「ありがとうございます、アンナ先輩。…キョーカ先輩も」
アンナ先輩にお礼を言ったあと、奥を覗き込んでキョーカ先輩にもお礼をいう。キョーカ先輩は、私を一瞥したあと、何も言わずに読んでいた本に目を落とした。
「芽衣。楽しむために、がむしゃらに、舞台の上だけでも自信を持とう。芽衣なら大丈夫」
「わ、私」
「舞台には芽衣しかいないわけじゃない。わたしも、凛もいる。大丈夫。芽衣はひとりで演劇をするわけじゃない」
「美里、ちゃん…。うん、ありがとう。私たちなら、大丈夫だね」
そう言って、芽衣はふにゃ、と笑った。
「かわ…!」
やっぱり凛は芽衣に弱いみたい。
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