1幕

4/5
前へ
/9ページ
次へ
祥子先輩の言葉に、目の色を変えた気がしたけど。気のせいだったのかな。舞台に立ってみなければわからないこともあるか。わたしもだけどね。 「よし、じゃあこの調子でどんどん…」 「それで満足するつもり?」 「え……」 頭上から声がした。見上げると、キョーカ先輩が私たちを見下ろしていた。 「さっきから見ていたけど。その子。メイ、だっけ?性格を否定するわけではないけど、舞台で人見知りしてたら見てる人も気になっちゃうわよ」 これは。助言?注意? 「す、すみませ」 「謝るのはなしよ。謝るのは、舞台のあと反省会でもするのね。今はがむしゃらにやってみなさい。そしたら、お客さんに何か届くものはあるはずよ」 「がむしゃらに…」 また、芽衣の目の色が変わった。もしかしたら。舞台に上に立つ自分を想像しているのかも。がむしゃらに、自信を持って舞台の上に立つ自分を。 「あの、アンナ先輩も何か助言ください!」 芽衣は。舞台の上の自分に憧れているのかもしれない。でも、実際の自分には自信がない。それを、鼓舞できたら。 「え、あたし?」 「…別に私は助言したつもりはないわ」 そう言って、キョーカ先輩は奥に行ってしまった。 「ま、まあ、そうだなあ。最初からうまくやれるわけはないんだし、うまくやろう、じゃなくてまずは楽しんでみよう、って感じじゃね?楽しむ準備っていうか」 「たのしむじゅんび」 オウムのように言葉を繰り返す芽衣。確信した。この子はやっぱり演劇向きだ。 「ありがとうございます、アンナ先輩。…キョーカ先輩も」 アンナ先輩にお礼を言ったあと、奥を覗き込んでキョーカ先輩にもお礼をいう。キョーカ先輩は、私を一瞥したあと、何も言わずに読んでいた本に目を落とした。 「芽衣。楽しむために、がむしゃらに、舞台の上だけでも自信を持とう。芽衣なら大丈夫」 「わ、私」 「舞台には芽衣しかいないわけじゃない。わたしも、凛もいる。大丈夫。芽衣はひとりで演劇をするわけじゃない」 「美里、ちゃん…。うん、ありがとう。私たちなら、大丈夫だね」 そう言って、芽衣はふにゃ、と笑った。 「かわ…!」 やっぱり凛は芽衣に弱いみたい。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加