あの日の魔法のように

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あの日の魔法のように

お前はモテるから俺の気持ちなんか分からない。 って……彼女と別れたっていうそこそこ親しい同僚に恨めし気な目を向けられたけど、それこそお前に俺の気持ちは分かんねぇよって心の中で襟首掴んで喧嘩売りたい気分だった。 確かに声をかけられることは多いかもしれないけど、モテりゃあ万事解決、な訳はない。 お前と違って俺の対象は男だけど。 「ハ~ル~……今度もダメだったよぉ……」 一人暮らしのワンルームのベッドの上に蹲る傷心の俺。 抱き締めてるのは芝犬のぬいぐるみ……愛称、ハル。 何を隠そう小学校1年生の時からずーーっと大事にしてきた、俺の心の友。 嬉しいことがあった時も、悲しいことがあった時も、いつもハルを抱き締めて報告してた子どもの頃の癖が、実は今も抜けないでいる。 年季を感じさせる毛並も色も、母親いわく『もう……処分したら?』って感じに見えるらしいけど、ハルは俺にとってただのぬいぐるみじゃない。どんな時も、ハルだけが俺の傍にいてくれたから。 「何がダメなんだろう……俺、やっぱどっかおかしいのかな」 今年に入ってもう3人目。別れたの。 付き合ってくれって言ってくるのは大概向こうで、別れを切り出すのはいつも俺。 どの子も結構可愛くて外見的に言えば好みだし、性格だってなんの問題もないのにダメになる。 好きではあるんだけど……食指が動かないっつーか……ムラムラ来ない。 単に『好き』の種類が違ったんかな、とか最初は思ったけど、こう毎度毎度だとやっぱ自分を疑う。 もしや……そういう病気じゃねえかな、とか。 インポじゃない。だって自分でヤるときは勃つし…… だから、心の病系……? 「病院なんかいけねぇし……どーすりゃいいんだよ……」 ぎゅうっと抱きしめてたハルの頭を撫でて、やけに生き生きして見える茶色い目を見て呟いた。 ハルが優しく見つめ返してくる。 何をいう訳じゃないけど、それに何より癒される。 「もういっか……ハルがいるもんな……」 もう一度ぎゅううっと抱き締めて……暖房が効いた室内のぽかぽかにおされて、うとうとした。 ほんの10分、20分のことだと思う。 けどそれの前後で世界がまるで変わるなんて、誰が予想する? できるわきゃねえ。 目が覚めたら、知らない男を抱き締めてたなんて……そんなこと。
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