あの日の魔法のように

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「高井田、お前彼女でも出来たか?」 そう人に言われる今日この頃。皆様いかがお過ごしでしょうか。 僕は至極ご機嫌な毎日を送っています。 なんたって…… 「おかえり、晃ちゃん」 にこーって笑って。ハルがやべぇくらい可愛いの。 そんなふうにお出迎えよ。毎日。一日の疲れもふっ飛ぶってもんよ。 エプロンしてる時もある。たまんねーの。これが。 料理も上手くてさ。 味付けも俺の好みで、俺の好きなモン……作ってくれて。 だからたまにはハルにうまいもん食わせてやろうってミシュランクラスのレストランを予約しようとしたら、 「んなもん食ったら腹壊すよ。どうしてもって言うなら……もんじゃ食べに連れてって」 って、小首を傾げて言った。 なんでもんじゃ?って思ったら…… 「晃ちゃんのとこにきたばっかりの頃……晃ちゃん俺を片時も離さなかったんだよね。 家族でもんじゃ食べに行った時も俺を連れてって……ほら、ケツんとこのシミはさ、そん時の。 晃ちゃんといつも一緒で、嬉しかったなぁ~……だから、もんじゃがいい。思い出して、嬉しいから」 悶えるだろ。 可愛すぎじゃん。 「ん。じゃあ、店探しとく」 俺は口元が緩むのを自覚しながら、即座にスマホのグルメページをスクロールした。 大学入学をきっかけにアパートで一人暮らしをするようになった時も、勤め始めてマンションに引っ越した時も、迷いなくハルを連れてきた。 ライナスの毛布だなんだって言われたって、どうしたって捨てられない。 ぬいぐるみが人間になるなんてあるわけないことが起こったって、そんなのどうだっていい。 ハルがいてくれたら、それで。 「ハル……寝よ」 「うん」 ベッドに入って布団を持ち上げると、ハルがもぞもぞ腕の間に入ってくる。 ずっとそうしてきたように、胸に抱き込んで眠りにつく。 「おやすみ、ハル」 「……おやすみ」 なんだかあっちもこっちも満たされて、ここ最近の俺は足りない所がない。 みんなみんな、ハルのおかげ。 ハルを幸せにしたい。 ハルの喜ぶ顔がみたい。 そんなある日、ハルが急に言い出した。 「ねぇ晃ちゃん。俺を『メビウス』に連れてって」 メビウスは俺の行きつけのバー……っていうか、ちょっと上品なハッテン場? 一夜の相手を見つけるような場所じゃねえけど、割とみんな出会いを求めて集まる……そんな店。 なんでそんなとこに?
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