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「とりあえず、カナとユニから聞かせてもらおうかな」
エマが黒板を操作しながらきりだした
「カナは、どうしたい?何になりたいの?」
「わ、私はヒロキさまの………」
「ここに、センターの監視はないわ。正直な意見を聞かせて?」
口調は優しいが、エマの目は笑っていなかった。むしろ戦士と呼ばれるニアの方がニコニコしながら俺たちを眺めている
「私は、出来れば、奴隷を卒業して、一人前の冒険者になりたいと思っています」
「冒険者になって何がしたいの?」
カナは一度ゆっくりとまばたきしてから、真っ直ぐにエマを見て言った
「色々なものが見たい」
「………」
「私の生まれた土地は、色彩に乏しい茶色い村で、いつもひどい風が吹いていました。それから色々あって、セントラルシティにしばらくいて、運良くヒロキさまの奴隷に選ばれて。転移者のガイドになれる奴隷は、とても運がいいんです。エマさんたちはご存知でしょうけど」
エマは深くうなづいた
「そうね。とても運がいいわね」
「はじめは、ヒロキさまを、こう、たぶらかして、手玉に取れたらなんて考えてたんですけど」
カナはこちらをみてちろりと舌を出した
「一緒に訓練を受けたりしてるうちに、なんか、いつかヒロキさまと対等に、肩を並べて冒険してみたいと思うようになりました」
「なるほどね。じゃあカナのスキルはヒロキとコンビで考えた方がいいか。体術のレベルは高めだし、見た目より戦闘向きなのよ、この子」
ニアが黒板を操作してエマに何かを見せた
エマが目を丸くする
「なんだ、エステルは今、街区Aで講師してるのね?」
「エステル師匠をご存知なんですか?」
ニアがクスクスと笑って答えた
「知ってる知ってる。あたしも見たとき笑っちゃったもん。エステルはエマの息子よ。ちなみにイチカの師匠筋にあたるニコラスはあたしの子。みて、エマ、この街区Aの講師リスト!」
「うわぁ………見事に抱え込まれたわね………」
しばらくそのリストを眺めたエマがハッとして顔を上げた
「それでこの子たちの始まりの部屋が季節外れの燕去なのね………」
「多分ね」
「じゃあ、ユニはどうしたい?」
「出来るだけみんなについていきたいけど、私は子を産んで、いつかはナニーになりたいです」
「ナニー。子育てを仕事にしたいのね?」
「産んだ子を手元に置くのは贅沢な望みだと知ってますけど、私は自分の子を育ててみたい。それから、イチカやカナが子を産む機会があるなら、その子供たちも。私は、みんなが帰る家になりたいんです」
「じゃあ、子を守る力が必要ね。基本的な体力系と、治療系の知識。それから、財力も」
「なんで財力が必要なんですか?」
俺がたずねると、エマは少し悲しそうな顔をした
「倭では、子供は、国のモノなのよね。産めばたくさんお金はもらえるけど、それはある意味子供を買い上げるような性質のものなの。ある程度離乳が済んだら、子供はセンターに連れて行かれて、どこかの子を待つ人の所に送られてしまう」
「自分でその子を育てていきたいと思ったら
センターから子を育てる権利を買わないといけない。それか混沌の民になるか。混沌の民はセンターに支配されない身分だから、センターに子を提供する義務はないわ」
「その代わり混沌の民には安心や安定もない。混沌の民の作る国もあるにはあるけど、あれは国というよりは宗教団体みたいなものだし」
「ユニは、センターのナニーにはなりたくないのよね?」
確かめるようにエマが言った
「センターのナニーにはなりたくありません」
「OK。どうするかはこれから考えるとして、ユニの希望はわかったわ」
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