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「じゃあ、ヒロキとイチカの話も聞かせて?イチカは魔女の山に行きたいのよね」
「はい。元の世界に戻りたくて、その方法を探していたら、魔女の山の伝説にたどり着いたので。魔女の山のどこかには、転移の魔法陣と似たカラクリがあり、魔女はそれを使って世界を渡る、って」
エマとニアが顔を見合わせた
「………聞いた事ある?」
「エマが知らないものをあたしが知ってる訳ないでしょう?」
「イチカはその話を何処で知ったの?」
「街区Aの図書館で」
「うーん。もし、魔女の山にそんなものがなかったとしても、やはり魔女の山を目指す?」
「はい。もしも帰る望みが絶たれたら、あたしは癒し手か魔女になりたい。魔女は、センターのスキルとは違う理の魔法を使うと聞きました」
「決意は堅そうね。わかったわ、イチカはとにかくレベルをあげる事ね。さっきもちょっと言ったけど、魔女は弱い者には容赦しないから」
「ヒロキはどうしたいの?」
俺は………どうしたいんだろう。他のメンバーの思いがけないはっきりした目標を知って、俺は自分のふんわりした冒険者のイメージが薄っぺらい物だと気付いてしまった
エマは目を細めて俺を見ると、不意にサマハナの方をみた
「ヒロキの話は、また今度ききましょう。サマハナはどうしたいの?」
「僕は………」
サマハナは少し俯いて上着の裾を揉んでいた
「カナみたいに世界を見てみたくもあるし、イチカと魔女の山にも行ってみたい。僕は、もう、誰かに利用されたり、守られたりしないで、生きていきたい。僕が僕らしくいられる場所で、みんなと。知り合ってまだほんの少しだけど、ヒロキ達は今まで会ったどんな倭の奴らより生きてる感じがする。倭の、今まで会った事のある奴らは、殆どが変化を嫌うんだ。例え冒険者でも、昨日と違う明日を探したりしない。誰かが持ち込んだちょっとした儲け話や、テロスよりシャンバラの方が美味い飯が食える、みたいな話には乗るやつは沢山いるけど、魔女の山を探しに行くとか、ドラゴンを見に行きたいとか、単に「ドームの外を見てみたい」って望みだって、口にしただけでバカにされる。バカなのはあいつらの方だ。みんなと同じか、ほんの少しみんなより思い切った事をしてるだけじゃ、有段者はおろか9級にだってなれやしない。………僕は、どうしたいかはまだわからないけど、でも。」
「………わかるわ、サマハナ。倭の民は変化を嫌う。その通りよ。あなたにはきっと冒険者の血が流れている。大丈夫、きっと、どこまででも行けるわ」
エマはそっと手を広げて、サマハナを抱き寄せ、頭を撫でた
サマハナは一瞬ビクッとしたものの、身を委ねて目を閉じていた
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