エマの屋敷にて

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それから今後しばらく滞在するコテージに案内された。コテージと言っても大きな建物で、ただ外観がログハウス風の作りになっているだけだ 玄関には寒い季節に備えてか、小さな玄関ホールがあり、ホールの扉を抜けるといきなり大きな吹き抜けのLDKになっている 一階にもいくつも部屋はあったが、LDKの吹き抜けに面した二階の回廊にそれぞれ寝室が並ぶ形になっていた マスターベッドルームは二階のリビングとして使うことにして、俺たちはそれぞれ部屋を選んだ。全員が一部屋ずつ使ってもまだまだ部屋は残っている マスターベッドルームより少し小さな、しかし立派なベッドルームは、例の部屋にされた。なんか、もう、そっち方向に関して俺の意見や自由はほぼない感じだ。嫌なわけではないけと、複雑な気分になる ちなみにニアはエマの住む母屋に部屋を用意されていた 「すげー。僕自分の部屋って初めてだよ!」 サマハナが無邪気に喜ぶ。サマハナが選んだのは、天井裏への急な階段がついている変則的な部屋だった。確かに秘密基地みたいだ イチカは物置き部屋がついている大きめの部屋。物置き部屋は、憧れのウォークインクローゼットにすると言う ユニは窓が大きな角部屋を選んでいた。針仕事をするには明るい部屋がいいとのことらしい カナは俺の部屋の隣に固執したので、俺とカナでいくつか部屋が繋がっているコネクトタイプの部屋を選んだ 大きめの部屋の左右に二間ずつついている部屋だ 俺が二間。カナも二間で、真ん中の部屋を共有のエリアにすることにした 当分の間ここに住むことになるから、部屋は好きにカスタマイズしていいと言われた。もっとも基本的な家具はそろっているしベッドやリネン類もきちんとしている。しかも倉庫や倉の家具を好きに使っていいと言われた。そこに好みのものがなければ、訓練が休みの日に燕去(えんきょ)市街に買いに行ったり、注文したり、自分で作ったりしてもいいとのことだ 「先に言っておくけど、少なくとも1〜2年、もしくはもっと長い期間ここをベースにするから」 ニアがそういうとエマが笑って引き継いだ 「まあ、慣れてきたらあちこちに行く機会もあると思うけど、良ければこのコテージはあなた方の拠点の一つにしてもらって構わないわ。昔別なパーティーの拠点用に作った建物だけど、今は誰も使ってないから。古いけど必要なものは全部そろってるのよ。追々説明していくけど」 それもみんなの楽しみになった。街区Aで貯めたお金もそこそこあったし、ガレリアや燕去(えんきょ)市街地で見かけた家具や置き物なんかに、それぞれ惹かれるものがあったからだ。何より根なし草のように暮らす覚悟はあったにせよ、やはり家があるというのは心が落ち着くものだ とりあえず部屋の埃を払い、家具にかけてあった埃除けの布をはがして、ベッドも使えるようにした しばらくは訓練の合間を見て、このコテージを掃除したり直したりで過ごす事になるだろう 部屋をどうレイアウトするかを考えていたら、少し沈んだ気持ちが持ち上がってきた。新しい暮らしも悪くない 「ヒロキさま!共有の部屋に、本棚を置きませんか?壁全部に。あと、ライトをいくつかと、ラグと、クッション!」 「カナの好きにしていいよ」 「もう。ヒロキさまの部屋でもあるんですから、もう少し真剣に考えてください!」 もう「ヒロキさま」と呼ばなくていいと言ったのに、カナは頑固に呼び方を変えなかった。何かこだわりがあるらしい 早速倉庫や使わない部屋からクッションやクロスを持ってきて、共有の部屋の一角にくつろげるスペースを作り上げた 「ヒロキさま、そこに座ってて下さい」 言われるがままにクッションに腰掛けて、壁にもたれかかる。窓辺に置かれたランプが優しい しばらくするとカナがカップを二つ持って戻ってきた 俺に一つ渡して、隣にぴったり座ってにこりと笑う。俺はあいている手でカナの頭を撫でた 暖かいミルクティ。甘くて優しい味 「こうやって二人でいるの、街区A以来ですね」 「そういえば、そうだね。あれからまだひと月ふた月か。色々あったから、もっと経ってる気がしてた」 「私は、もうひと月も経ったのか!って感じです」 ふふっとカナは笑ってミルクティを飲んで俺に寄りかかってきた。 ふわっとカナの優しい匂いがした。 そういえば街区Aにいた頃、俺とカナは1つの部屋で仲良くこうやって暮らしていた。まるで恋人か兄妹のように身を寄せ合って二人で。俺たちはお互いに過去を語り合わなかったが、何故かお互いに一人きりだと言うことをよく知っていた。 はじめに目覚めたあの部屋はだんだんと暖かな色に染められ、いつしか二人の『帰る家』になっていった。懐かしいあの部屋。街区Aの俺たちの小さな巣 カナはきっとあの部屋をまた作りたいのだろう。くつろげる、暖かな場所。俺の腕の中ですやすやと眠るカナ。少し甘い、女の子の匂いと、桃の様な頬の産毛 悪くないな 俺はカナのこめかみにキスをした。かつてよくそうしていたように 「ヒロキさま………」 カナが自然にカップを置いて、首に手を回してキスをねだってきた 俺も自然にカナの後ろ頭に手を添えて、キスに応じる 「なあ!ヒロキ!このベッドカバー………あー!カナ、ズルい!!」 ………サマハナの声に誘われて全員がこの部屋に集まってしまった……… 結局エマの屋敷についた初日は全員この部屋での雑魚寝になった
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