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「そろそろ、ダンジョンに行ってみようか!」
ニアが唐突に言い出したのは、ユウトとカイトが歩き出して目が離せなくなった頃だった
その日は朝からお弁当を作り、エマのドームの中の小川沿いにある桜を見に出かけていた
桜の下にゴザを敷き、弁当を広げて本格的な花見だ。桜といっても、この桜はさくらんぼがなる桜で、俺やイチカのよく知ったソメイヨシノとはだいぶ違う。それでも豪華に花をつけた桜はなかなかに見事だ。梅をはじめに林檎に梨や桃、アーモンド。春に花咲く果樹はどれも美しい
エマのドームには養蜂を趣味にしているターシャという女性がいて、彼女の一族のお陰で養蜂家を呼ばなくてもイチゴからさくらんぼまで果実がよく実る
カイトのハーネスにつけた紐を持ちながら、花から花を渡る蜜蜂をぼんやり眺めて、幸せを噛みしめていたときだったので唐突なニアの言葉が一瞬理解できなかった
「え?どこ??」
聞いたのは俺じゃなくてサマハナだった。サマハナは仰向けになってユウトをタカイタカイしているところだったので、普通に聞き逃したのだろう
「ダンジョン」
ニアが酒瓶を持ち上げてそう言った。酔っている
「ダンジョンって………」
イチカが困惑したように呟いた。羽虫がブーンと耳元を通り過ぎていく
「良いですね!行きたいです」
元気よく答えたのはカナ
「あ、私はパスです。もしかするとまた授かったかもなんで、子供たち見ながら留守番します」
え??ホントに?
みんなに詰め寄られてユニは苦笑した
「まだ確定じゃないんで、喜び過ぎないでくださいね」
「でもダンジョンなんてどこにあるんだ?」
「いくらでもあるわよ、文字通り」
エマが面白くもなさそうにクッキーをつまんだ
「ここだってドームなんだから、見方によっては地下だし。倭でも古い都市はもっとダンジョンめいた作りをしてるわよ?倭は基本的にダンジョンだらけ。むしろシャンバラのドームの方が例外に近いわ。まあ、平和で快適に暮らせるからこそここに住んでるんだけど」
「混ぜっ返さないでよエマ。よく考えたらこの子達狩りと訓練以外の戦闘とかしてないのよ!」
「まあ………そうね。確かにそろそろ実践は必要かも」
「だからさ、ダンジョンだと思うのよ!」
変に盛り上がっているニアと、少し考えこんでいるエマ
「どこにするの?近隣の冒険者ギルドには該当案件ないわよ?」
「エマの迷宮は?」
エマがすごく嫌そうな顔を見せた
「もう何年も放ったらかしだからどうなってるかわからないわよ。キーパーも雇ってないし」
「………ダメ?」
エマは深いため息をついた。
「わかったわ。基本的にはメンテしてない状態でも良ければ使っていいわ。あとで条件を詰めましょう」
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