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彼氏
庭園に上がると、平日だからかそれほど多くの人はいなかった。時間帯も夜景を見るには早すぎる。天気が良ければ夕焼けも綺麗に見えるだろう。
「残念、今日は天気が悪いから眺めはイマイチだね」
そう言いながら、三崎くんはあたりをキョロキョロと見回し、ベンチがあるところに進んでいった。
「ちょっと座って待ってて」
そういうと、小走りでどこかへ行った。
ふぅー…
好きです、って言っちゃったなぁ。
まさかこんなことになるとは思いもよらず。
これは現実なのかな…
空を見上げると天気が悪かったからかもう殆ど暗いけど、西の方の空はすこし光が射している。グレーとオレンジと、少しの空色が混じって幻想的だ。
9月下旬のこの時間は少し肌寒い。
制服も移行期間で、夏服でも冬服でも中間服でもどれを選んでも良いことになっている。
日中は暑いこともあるので、わたしは中間服にしている。
夏服は白地のセーラー服。ラインとスカーフはスカートと同じ青色。スカートは青系でよーく見るとチェック柄。
これにカーディガンを羽織れば中間服になる。
少し捲っていた袖を下ろしまわりを見渡すと、三崎くんが戻ってきた。
両手にカップを持っていた。
ひとつをわたしに渡してくれた。
受け取ると温かかった。手が冷たくなっていたからじんわり気持ちがいい。
「カフェラテ、ミルクたっぷりなやつ。」
見ると模様が描かれていた。
「ありがと。これ大好きなんだ。模様も綺麗だね」
「よかった」
そう言ってストローに口をつけた。三崎くんのはストローを差しているので、コールドドリンクなんだな。
「あっ、お金っ。」
カップをベンチに置き鞄からお財布を出そうとしたら止められた。
「大丈夫だから、とりあえず温まろう」
「あ、ありがと。じゃあいただきます。」
ふっと、笑って頷いてくれた。
やっぱり慣れず沈黙になるけど、この沈黙は嫌じゃない。胸が苦しくて鼻がツンとするようなことはない。
「寒いとは思ったんだけど、多分今の時間はどこも人が多いと思って」
三崎くんが切り出した。
「俺の気持ちは伝えたけど、まだ言いたいことあって、さ。
改めて、、、俺、桃谷さんのことが好きなんで、付き合ってほしいです。」
三崎くんの目が揺らいだ気がした。
切ない目がわたしに向けられている。この目は他の誰にでもないわたしに。
「はい、、嬉しいです」
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