彼氏

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「ね、さくらちゃん」 吹奏楽部の山城莉沙ちゃんは同じクラリネットパート。 中学は別だったが高校で仲良くなった。 とは言っても部活以外ではあまり一緒にいることはない。 「昨日さ、駅で見かけたんだよね。」 ドキッとした。 あまり莉沙ちゃんとこういった話をしたことがない。そして、莉沙ちゃんの目がちょっと鋭い気がしたから。 見かけたってわざわざ言うくらいだから、三崎くんといる時のことかな。 「え、あ、うん…。どうかした?」 莉沙ちゃんの目がより鋭くなった気がした。 「どうかした?って。いたよね、テニス部の1年生と。」 「あ、あの、彼氏、になったの」 何故か責められているようになりしどろもどろになる。 え、莉沙ちゃんの好き人じゃないよね。 たしか、2年生の先輩がかっこいいなって言ってたような。夏休みに入る前の話だけど。 「キャーッ。マジで?えっ。何どっちからなの」 途端に、質問攻め。 「さくらちゃんさ、恋バナしないから興味ないと思ってたのにさ、彼氏かよ!いいなぁ。リサさ、恋バナ好きだからいっぱい聞かせて。」 そっか。 莉沙ちゃんはコイバナが好きなんだ。女の子は好きだよね。 一瞬、三崎くんを好きなのかと思った。 でもペラペラ喋るのはどうなんだ。 三崎くんの断りもなしに話すのは憚られる。 「ってかさ、一緒にいたのってテニス部の駿太くんだよね。モテるでしょ、駿太くん。どうやって射止めたわけ?駿太くんが彼氏だなんていいなぁ。」 駿太くん、駿太くん、、、 何回も言ってくれちゃってさ。 わたしなんて三崎くんって言うので精一杯だよ。 「駿太くんさ、わたし同じ塾だったんだ。無口っていうか、女子とはあまり話さないんだけど、男子とつるんでる時の笑顔とかがかっこいいって、みんな騒いでた。モテるのに彼女作らないからさぁ。高校でも作る気配ないし。そしたら、昨日、駅で手を繋いでるんだもん、ビックリしちゃった。しかもさくらちゃんだし。」 莉沙ちゃんは興奮したように話し出した。 「今まで何か接点があったの?てゆうか、さくらちゃんあんまり男子と話してるイメージないんだけど。それなのに、あんなイケメン捕まえちゃってさぁ。いつも一緒にいる陸上部の子の彼氏もイケメンだよね。駿太くんの友達でしょ。いいなー。イケメンに囲まれて。」 こんな感じだった? 話す隙を与えないというか、一方的というか。 改めて思った。 莉沙ちゃんとは部活の話とか表面的にしか話したことがなかったんだな。 「莉沙ちゃん、練習しよ」 なんと言っていいかわからず苦笑いになった。 曖昧な返事しかできない。 だって、付き合い出した馴れ初めなんて、人にペラペラ話さないよね。 「えー…ま、いいや。リサ今日あっちで練習するね~」 あ、なんか感じ悪かったかな。 話をはぐらかしたのが気に触ったようだ。 結局、その後莉沙ちゃんと話すことはなかった。
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